3.東京湾アクアラインの建設技術


シールドトンネル

世界初の大口径・長距離掘進への挑戦

海底トンネルの構造には、沈埋トンネル工法とシールドトンネル工法があります。沈埋工法では、海底掘削・埋戻し作業や沈埋函の曳航・沈設作業のため、船舶航行が輻輳する中での作業は困難であると判断しました。
一方、シールド工法は1970年代後半に施工技術が確立されてから、大口径・長距離・高水圧トンネルの施工実績が増え、将来の6車線構想にもトンネル1本の追加で対応できることから、日本で開発された泥水加圧式シールドトンネルが採用されました。

<沈埋トンネル工法>
トンネルの一部または全体を予め製作し、水に浮かべて所定場所に曳航して、沈説してつなぎ、埋戻す工法。東京湾岸道路東京港トンネルや首都高速湾岸線多摩川トンネル、川崎航路トンネルなどがある。

<シールドトンネル工法>
都市部の地下鉄建設でよく知られる工法。トンネル形状に合わせた鋼製円筒のシールドマシンを地底に下ろし、もぐらのように掘り進む。水底導水路や汚泥流送路の建設でも多用されている。道路では関門トンネルに一部使用されたが、本格的な全面採用は、当時、わが国初めて。

東京湾の海底10kmの道、世界最大級のトンネル

アクアトンネルは、海面下最大60mの海底を両側から掘り進んで地中接合させた、延長約10kmの道路シールドトンネルです。
シールドトンネルは、高水圧で軟弱地盤と言う条件下で切羽の安定と止水を確保するため、密閉型シールドマシンを使用しました。
シールドマシンは、口径14.14mの円筒状で、先端に取り付けられた刃が回転しながら、高圧の泥水を使用し、崩れないように押さえられた土を削り取ります。
泥水となった土はポンプにより排出し、マシン後方では1.5m進む毎にセグメントをリング状に組立てトンネル壁を構築しました。
この掘削、泥水の給排水、セグメントの組立は全て自動化されています。
浮島取付部及び木更津人工島の立杭の川崎人工島の両側から発進した2本のトンネルは両押しで施工し地中接合しました。

水底部シールドトンネル技術の発展

口径14.14mの巨大シールドマシンの開発

東京湾アクアラインのトンネル掘進には、6気圧にも及ぶ高水圧と軟弱地盤中の長距離掘進という条件下で切羽の安定と止水を確保するため、直径14.14m、重量3,200tの円筒状密閉型大口径シールドマシンを開発しました。
高圧の泥水により崩れないように押えられた土を、先端に取付けられた刃が回転しながら削り取り、泥水となった土は、ポンプで排水します。マシン後方では1.5m進むごとに、11個のセグメントによりリングが組み立てられ、トンネルを構築しました。これらの掘削、泥水の給排水、セグメントの組立は、すべて、自動化されて施工しました。

正確に地中でドッキングした離れ技

シールド工事は、浮島取付部・川崎人工島・海ほたるの各立杭から8基のマシンを発進させ、上・下線の各中央部4か所で地中接合しました。
接合には高精度の線形管理システムを導入。人工衛星を使った測位システム(GPS)も活用しました。マシンには特殊仕様を施して、両側から接近するとセンサーカッターを引き込め、30cmの間隔で向き合った所で停止させ、マシン前面から周辺地盤に凍結管を放射状に打ち込み、周辺地盤を凍結して止水した後、人工施工を行い貫通しました。
従来の最大実績である直径9.7mをはるかに超える規模の地中接合に成功して、シールドトンネルの長距離化に新たな舞台を広げました。

シールドマシンの解体(地中接合工事)

貫通直前の状況



人口島

超軟弱地盤を克服して築造した人口島

軟弱な海底地盤上に人工島を築くためには、大規模な地盤改良と安定した海中盛土が必要です。特にシールドトンネルの通過部分は地盤が強すぎず、ばらつきも少ないことが要求されます。

護岸構造物を軽量化できる改良盛土工法

砂とセメントを主な改良材とするプレミックス工法で、海洋土木工事に大規模に採用したのはわが国で初めてです。
浮島と海ほたるの斜路部護岸盛土に使われたスラリー方式は、施工前に砂、セメントに泥岩、水を混合してスラリー状にしたものをトレミー管で打設します。急速施工で、引き続きトンネル施工ができ、長期の安定性と耐震性に優れていることが特徴で、150万m3もの海中斜路盛土を築造しました。
海ほたるの平坦部の盛土量約43万m3は、有害な沈下がなく、十分な支持力をもち、地震時に液状化しにくいドライ方式を適用しました。自然含水状態の砂とセメントを混合して分離防止剤溶液を添加し、二重トレミー管を通して水中に投入、固定させたものです。
平坦部護岸には、わが国で初めて25mの大水深に適用する鋼管矢板井筒式とプレハブ式鋼矢板セル式を採用、セル式の中詰材には1函1万m3の大量の砕石を使用しています。

メリット大きい低強度深層混合処理工法

セメントミルクなどの安定剤を使って、強制的に攪拌混合しながら軟弱地盤を補強する工法です。従来工法よりも低強度にして、安全、かつ効率のよいトンネル掘進に寄与すると共に、完成後の沈下防止と構造物全体の安全性増大に貢献します。浮島取付部の護岸間、川崎人工島、海ほたる斜路部に採用されました。

斜路部のスラリー状混合処理盛土の実施

斜路部の盛土完了

世界初の大規模構造物式―川崎人工島

川崎人工島(完成後は風の塔)は、浮島沖合部約5km、水深約28mの地点に建設された、直径約200mの円筒形をした大型海洋構造物です。
人工島は外側から幅約35mのジャケット式鋼製護岸、その内側に幅約5mの中詰盛土、厚さ2.8mの地中連続壁と外径98mの立杭本体により構成されています。工事途中の地中連続完成までは、ドーナツ型に内側と外側二重にジャケット式護岸が設置され、その護岸間に中詰盛土を造成して地中連続壁を施工しました。
この人工島が建設される地点は、海底面から深さ約25mまでは非常に軟弱な粘性土地盤で、世界最大規模の人工島を建設するために設計・施工面で地盤改良、ジャケット式護岸や地中連続壁など、さまざまな工夫がこらされました。

ジャケット式鋼製護岸の輸送
ジャケット式鋼製護岸は、鋼管を用いた骨組み構造です。このような構造物は、石油採掘用の櫓として使われてきたものですが、護岸として使用された事例はほとんどありませんでした。

大断面・大深度掘削で完成した地中連続壁

川崎人工島は、トンネル中間地点であり、船舶航行の過密地帯であるため、超大型の円筒形地中連続壁を建造して、その中からシールドマシン4基を発進させました。完成後は換気所になります。
地中連続壁は、近年わが国で発達した地中連続壁工法をもとに、外径103.6m、縦長さ119m、壁圧2.8mの連続壁を構成する56本の短冊状エレメントの建込みを、前例のない大断面、大深度掘削で成功させました。

地中連続壁の構築

地中連続壁は、人工島本体を構築するための円筒形の鉄筋コンクリート壁です。周囲の土圧・水圧に抵抗して土のくずれを防止し、かつ遮水します。当時、日本で発達した地中連続工法により、大量の湧水源を有する大水深約28mのきわめて柔らかい海底地盤での構築が可能となりました。外径103.6m、長さ119m(海面下114m、海面上5m)、壁厚2.8mのこの壁は、前例を見ない大断面・大深度掘削となりました。

風の塔

人工島の上の換気所設置のために、東京湾特有の風に配慮した風洞実験や分析の結果、独創的な形状を持つ、大小2つの塔の設置が採用されました。
太い紺色のストライプのデザインは、この塔の構造的な大きさを感じさせるものであり、「風の塔」と命名されました。
風の塔の施工位置は、川崎港沖合5kmで、水深28m程度であり、海面下約30mは軟弱地盤層となっています。このためサンドコンパクションパイル工法等によって地盤改良を行い、その後土留め・護岸及び足場となる鋼製ジャケットを設置しました。
人工島の構築は鋼製ジャケットの間に地中連続壁を施工し、その内側に人工島本体のコンクリート構造物を造りました。トンネル施工中はシールドマシン発進基地として利用し、完成後に換気施設として利用しています。

木更津側から川崎方面を望む。白く見えるのが高さ90mの大換気塔(高さ75mの小換気塔はその陰で見えない。)

海ほたる

海ほたるは、木更津の沖合約5kmの海上に位置し、川崎側のアクアトンネルと木更津側のアクアブリッジの接続を目的に建設された盛土式の人工島です。
人工島の基礎地盤は、一部を除き軟弱地盤層の厚さが比較的薄いため、処理工法は軟弱層を浚渫除去して、山砂と砕石で置換する工法を基本としています。その後、斜路部および平坦部の護岸工、盛土工の施工を行いました。また、浮島取付部と同様にシールドマシン発進基地となる立杭は鋼殻ケーソン工法を採用しました。
海上に現れている平坦部は長さ650m、幅100mです。平坦部の護岸は道路と平行する長辺を鋼矢板セル式、橋梁側は橋台と護岸を兼用した鋼管矢板井筒式としました。また、島内の盛土にはドライ状混合処理盛土を採用しました。
海ほたるには、首都圏唯一の海上休憩施設を構築しました。東京湾に浮かぶ客船をイメージし、1階から3階までが480台収容できる駐車場、4階がショッピング施設やアミューズメント施設、5階がレストランです。5階のパノラマデッキからは東京湾周辺の風景を360°展望できます。

人工島本体の盛土
ドライ状混合処理盛土工法は、水を加えないで砂とセメントを混合したものに分離防止剤を添加し、二重トレミー管を通して水中に投入、固化させて盛土を行うものです。

鋼矢板セル式護岸は、鋼矢板という鋼板状の杭を組み立て、吊り運搬し、平坦部外周の長辺に当たる海底に打ち込みました。大水深約25mへの適用は日本で初めてでした。

駐車場、休憩施設の構築



橋梁

多径間と制振装置で耐震・耐風安全性

橋梁区間は海ほたる~木更津側着岸部までの4.4kmで、上部工は鋼床版連続箱桁橋です。うち約2kmが沖合部で、鋼製水中橋脚と鋼管杭基礎を採用、2,000総トン級の船舶航路を確保し、海岸寄り2.4kmの浅瀬部には、鉄筋コンクリート橋脚・鋼管矢板井筒基礎を使用しています。
設計は、耐震性、走行性を向上させるため、橋梁の多径間化を図って、最大連続桁長1,630mとし、浅瀬部には世界最大級のゴム支承(1.67×1.67×0.36m)を開発し採用しました。
鋼製橋脚は工場で製作し、大型起重機船で吊り運搬のうえ設置し、沖合部の橋桁は工場で大ブロックの桁に組み立てて、海上輸送の後大型起重機船で架設しました。
浅瀬部の中でも水深の深い区間の橋桁は、大ブロックの桁を干満差を利用して特殊台船により架設し、水深の浅い区間の橋桁は、小ブロックの桁を架設桟橋上のクローラークレーンにより架設しました。
橋梁は海とのハーモニーを重視することとし、滑らかな連続性のあるバランスのとれた景観を目指して、橋脚はY型に、橋桁は桁高が変化する変断面箱桁とし、色彩は橋脚は明るい灰色(オイスターグレー)、橋桁は象牙色(アイボリーホワイト)としました。

耐震性と走行性を向上させるために、沖合部は最大連続桁長1,630mとし、浅瀬部は世界最大級(1.67×1.67×0.36m)のゴム支承を開発して、橋梁の多径間化を図りました。

最長10径間連続桁

世界でも例のない多径間連続化が図られ、最長では10桁間連続桁、延長1,630mとなっています。航路をまたぐ沖合部では最大支間長240m、最も高い道路面は海面上約40mとなっています。

沖合部鋼製橋脚の設置(大型起重機船による)

沖合部の橋桁架設(大型起重機船による)

浅瀬部鉄筋コンクリート製橋脚の構築

浅瀬部の橋桁架設(台船による)

チタンクラッド防食工法

波や潮の干満により海水を浴びる鋼製橋脚の飛沫・干満帯部は特に腐食しやすい部分です。このため、耐食性に優れたチタンと鋼を圧着したチタンクラッド鋼を鋼板に溶接する方法を開発して、実用化しました。

制振装置

ある限られた風向風速のもとで鉛直たわみ振動が発生するため、制振装置として振動減衰機(Tuned Mass Damper)を製作し、沖合部の橋桁内部に設置しました。