未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
115

静岡県静岡市

静岡の山のなかで、100グラム1万円のお茶を作る茶師がいる。その茶園は、俗世から隔離されたような山中の別天地。エメラルドグリーンに輝く、繊細で香り高い茶葉。日本一とも評されるそのお茶づくりに迫った。

文= 川内イオ
写真= 川内イオ
未知の細道 No.115 |10 JUNE 2018
  • 名人
  • 伝説
  • 挑戦者
  • 穴場
静岡県静岡市

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#1山のなかの別世界

茶園に続く山道を軽々と登っていく小杉佳輝さん。

 ぜえ、ぜえ、はあ、はあ……。激しい動悸と息切れが止まらない。動悸、息切れといえば「救心」だけど、きっと役には立たないだろう。その時、僕はスマホの電波もつながらない静岡市の奥地、葵区玉川の急峻な山道を登っていた。

 登山道ではない。獣道のように、長年人が踏み固めてできた自然の道だ。案内なしではどこを歩いていいかもわからない。ところどころ、傾斜がきついところには細いロープが張ってあるけど、腹筋がシックスパックならぬワンパックの僕の体重を支えるには明らかに心もとない。

 日ごろの不摂生がたたり、登り始めてから数分しか経っていないのに、心臓がバクバクと脈打ち、ひざがガクガクする。立ち止まって休んでいたら、数メートル上で、息ひとつ荒れていない小杉佳輝さんが.苦笑しながら「大丈夫ですか?」と声をかけてくれた。

 はぃ、と深夜残業上がりのサラリーマンのような張りのない声で返事をすると、小杉さんは両手を腰の後ろで組み、ぴょん、ぴょんと飛び跳ねるようにして山を登っていく。その軽快な姿を見て、僕は思った。あなたは鹿ですか!

 鹿に弄ばれるへっぴり腰の素人ハンターのように、なんとかかんとか小杉さんの後を追っておよそ15分。ようやく着いた……!小杉さんに続いて獣除けの青いネットをくぐると、そこには日の光を受けてエメラルドグリーンに輝く茶畑が広がっていた。

 木々が生い茂って薄暗い山中を歩いてきた僕には、陽光に満ちた別世界に飛び出したように感じた。俗世から隔絶されたような標高800メートルのこの茶園で、100グラム1万円の日本一高い日本茶「東頭(とうべっとう)」が栽培されているのだ。

 背後を振り返ると、茶園が緑濃い山々に囲まれていることがよくわかる。見たこともない風景に、息を切らせながら「すごい!」とつぶやくと、東頭の二代目生産者、小杉さんがさわやかな笑顔で頷いた。
「はい。ここは秘境ですね」

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未知の細道 No.115

川内イオ

1979年生まれ、千葉県出身。広告代理店勤務を経て2003年よりフリーライターに。
スポーツノンフィクション誌の企画で2006年1月より5ヵ月間、豪州、中南米、欧州の9カ国を周り、世界のサッカーシーンをレポート。
ドイツW杯取材を経て、2006年9月にバルセロナに移住した。移住後はスペインサッカーを中心に取材し各種媒体に寄稿。
2010年夏に完全帰国し、デジタルサッカー誌編集部、ビジネス誌編集部を経て、現在フリーランスのエディター&ライターとして、スポーツ、旅、ビジネスの分野で幅広く活動中。
著書に『サッカー馬鹿、海を渡る~リーガエスパニョーラで働く日本人』(水曜社)。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。