未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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日本陶磁器・発祥の地 有田町に暮らす人々(後編)

初期伊万里に描かれた月の謎

文= 松本美枝子
写真= 松本美枝子
未知の細道 No.86 |10 March 2017
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#2有田を見渡す丘から

陶山神社には至るところに有田焼が使われている。

 そんな有田に来てからそろそろ二週間が経とうとしていたある日、私は少し焦っていた。
そう、私は佐賀県で行われるアートイベントのプロジェクトで、有田町に長期出張に来ているのだった。有田町に1ヶ月間、滞在制作して、作品を展示するのが今回の私のミッションだ。有田のことなら、焼き物のことならなんでも知っていると巷で言われている有田町役場の深江亮平さんとUターンの地域おこし協力隊員、佐々木元康さんを作品制作のパートナーに迎え「有田の歴史と現在をテーマに写真を撮影する」ということで、作品作りはすでに始まっていた。撮影はだいぶ進んでいたが、私は悩んでいた。有田の歴史の核となる被写体をどうするか、一体何を撮影したら今回の作品にとって良いのか、未だにその最後のピースを見つけられないでいたのだ。

 韓国の陶工たちの歴史のシンボルの一つを被写体にしたい、と私は考えていたのだが、何しろもう400年も昔のことである。一体何が良いのか、私にはなかなか掴めないでいたのだった。

 町の観光名所の一つ、陶山神社。有田を訪れる観光客は、ほとんどがそこへと足を運ぶはずだ。さらにその上の丘に、もう一つの有田の大切な場所がある。李参平の碑だ。有田町内山地区のまちなかで一番高い場所であるそこは、大正時代に建てられ、今でも町の人々や観光客が訪れる。

 ここに登ると、有田の町を一望することができる。私は考えに行き詰まると、毎日一回、この李参平の碑まで登ることにしていた。
今回の作品の中で、有田の歴史のシンボルとなる被写体は、一体何がふさわしいのかだろうか……、丘の上から有田の景色を見ながら、毎日悶々と考えていたのだった。

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未知の細道 No.86

松本美枝子

1974年茨城県生まれ。生と死、日常をテーマに写真と文章による作品を発表。
主な受賞に第15回「写真ひとつぼ展」入選、第6回「新風舎・平間至写真賞大賞」受賞。
主な展覧会に、2006年「クリテリオム68 松本美枝子」(水戸芸術館)、2009年「手で創る 森英恵と若いアーティストたち」(表参道ハナヱ・モリビル)、2010年「ヨコハマフォトフェスティバル」(横浜赤レンガ倉庫)、2013年「影像2013」(世田谷美術館市民ギャラリー)、2014年中房総国際芸術祭「いちはら×アートミックス」(千葉県)、「原点を、永遠に。」(東京都写真美術館)など。
最新刊に鳥取藝住祭2014公式写真集『船と船の間を歩く』(鳥取県)、その他主な書籍に写真詩集『生きる』(共著・谷川俊太郎、ナナロク社)、写真集『生あたたかい言葉で』(新風舎)がある。
パブリックコレクション:清里フォトアートミュージアム
作家ウェブサイト:www.miekomatsumoto.com

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。