
千葉県柏市
世界中の老若男女に愛されてきた楽器、ギター。読者のあなたも、弾いたことはなくても、一度は見たり触れたりしたことがあるかもしれない。それぐらいギターは、ポピュラーな楽器の一つだと言えよう。手賀沼の近くの森に、一軒のギター工房がある。そこにはさまざまな素性の、壊れたギターが持ち込まれ、凄腕のギター・リペアマンによって直され、また持ち主の元へと戻っていくのだという。そんな知る人ぞ知る工房「ソーンツリー」を訪ねてみることにした。
最寄りのICから【E6】常磐自動車道「柏」を下車
最寄りのICから【E6】常磐自動車道「柏」を下車
柏市の手賀沼の近く。人家のほとんどない、田んぼと小川の風景のなか、車を走らせる。不意にナビは急な坂道を登らせ、ますます人気の無い森の中へと進む。
本当にこんなところにギター工房なんかあるのかしら……と思うのと同時に、ナビの案内が終わった。道路の左側には、木立を背にしてポツンと一軒だけ、小さな四角い建物が立っていた。この外観はシンプルすぎるほどシンプルで、例えるなら白っぽい箱のようでもあり、なかで何をやっているのが全然わからない、そんな印象の建物だった。
ここが目的地なのかなあ、と思って車を停めて降りてみると、前掛けをした、男の人が出てきたのであった。
ギター工房「ソーンツリー」に行こうと思ったきっかけは、柏市に住む知り合いの音楽家が、その存在を教えてくれたからだった。
——最近知ったのだけれど、柏市内に知る人ぞ知るギター工房がある。看板も上げずに、凄腕のリペアマンが、たった一人でたくさんのギターやさまざまな弦楽器を修理している——
自身も弦楽器の演奏家として国内外で活躍している知人の話を要約すると、このような感じだった。そうか、ギターという楽器があれば、ギター・リペアマンという職業もあるのか、とギターに疎い私は、少しびっくりしたのだった。
それは興味ありますねえ、と私が返すと、「とにかく同じ柏市内の、しかも辺鄙なところに、こんな工房があるなんて、灯台下暗しでした。それにそこのギター・マイスターが、なんというか……仙人みたいな生き方の人なんです」とその音楽家はさらに続けて教えてくれた。
そんなことを思い出しながら、前掛けをした男性に挨拶すると、やはりこの男性こそが、ここ「ソーンツリー」のあるじ、斎藤弘幸さんだった。私が生まれて初めて会う、ギター・リペアマンでもある。「こんにちは、今日はよろしくお願いします」といって出迎えてくれた斎藤さんに促され、私は工房の中へと足を踏み入れたのだった。

松本美枝子