未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
278

戦国時代から氷を作る阿左美冷蔵の心意気 冬にしか出会えない、寒さを忘れるかき氷

文= 川内イオ
写真= 川内イオ、ファム フォン タオ
未知の細道 No.278 |10 April 2025
この記事をはじめから読む

#11「牛丼食べるみたいにかき氷食べますね!」

取材の日はほかに、近年、その濃厚な甘みで旋風を巻き起こしている埼玉生まれのイチゴ「あまりん」のシロップに練乳をかけたかき氷(1500円)、「桜みつ 粒あん付き」(1400円)、マロンミルク&塩キャラメルのかき氷(1400円)を頼んだ。これだけオーダーできたのは、なるべくたくさん旬の味を体験したくて、同行者を募ったからだ。

「あまりん」のシロップに練乳をかけたかき氷(1500円)。あまりんの濃密な甘みが口のなかで踊る。
あまりんのシロップの上から練乳を投入。屋台のかき氷のイチゴ味とは似ても似つかない味。(撮影:ファム フォン タオ)
マロンミルク&塩キャラメルのかき氷(1400円)。塩キャラメルの「塩味」がよく効いている。

冬から春にかけて用意されたシロップはどれも、決して前面に出過ぎず、かといって控えめでもなく、敏腕伴走者のように天然氷の力を引き出していた。なかでも、真白な氷が淡いピンクに色づく桜のかき氷は、桜餅のような塩気と甘みが絶妙なバランスで氷とハーモニーを奏で、いつまでも記憶に残る味だった。

僕らはダウンジャケットを着こんだまま、夢中になってかき氷を口に運んだ。同行者のひとりに、「イオさん、牛丼食べるみたいにかき氷食べますね!」と言われた。この表現からもわかるように、僕は寒さを感じる暇もなく未知なるかき氷を堪能していたし、それはふたりの同行者も同じだった。

冬にかき氷なんて酔狂な、と思うかもしれない。でも、阿左美冷蔵には寒さを忘れるかき氷がある。冬にしか出会えない味がある。

このエントリーをはてなブックマークに追加

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。