未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
55

東京の森で深呼吸をしよう 「東京最後の野生児」と歩く奥多摩


東京都奥多摩町

東京から2時間のショートトリップ。
そこには風景のほとんどが森、というもうひとつの「東京」の姿があった。
その驚くほど深い森と共に暮らしている人を見つけた。
「森の演出家」、「東京最後の野生児」などと呼ばれるその人と一緒に、森のトレイルを歩く。
それは、閉ざされていた五感の扉を開け放ち、
自分をとりもどす時間だった———。

文= 川内有緒
写真= 川内有緒
未知の細道 No.55 |20 Nobember 2015
  • 名人
  • 伝説
  • 挑戦者
  • 穴場
東京都

圏央道「青梅IC」または中央自動車道「八王子IC」を下車、奥多摩町へ

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#1森の生活 東京編

 ある研究によれば、人類は約700万年前にチンパンジーと袂を分かち、森を離れて草原で暮らし始めたという。それが、人類としての進化の始まりだ。その裏を返せば、私たちの祖先は、みな森で暮らしていたことになる。
「だから、人間は今でも森に戻りたくなるのかなあ」
 私が、木々の合間から空を見上げてそう漏らすと、その人は、「そうかもしれないですね。まあ、僕の場合、今でも森で暮らしてるんですけどねっ!」とニコリと微笑み返した。
 森で暮らす。
 それは今や、名著『森の生活 ウォールデン』を書いたヘンリー・ソローのような思想家か、はたまた半分世を捨てた人だけに許される特殊なライフスタイルとなりつつある。
 しかしながら、21世紀の東京においても人は森で暮らすことは可能らしい。それを日夜実践中なのがこの人、土屋一昭さんだ。
 まあ、正確にいえば「森の中」ではなく、「森の近くの古民家」に暮らしているわけだけど。それでも、彼は1日の大半を森の中で過ごしている。山を自由に歩き、キノコや山菜を摘み、川魚を捕まえ、火を起こして青空の下で料理をする。だから人は、今年38歳になったその男を、「東京最後の野生児」と呼ぶのだった。

 私たちは、森の中のトレイルをゆっくりと歩いていた。さっきから誰ともすれちがわない。樹冠からは木漏れ日が差し込み、あたりは濃いヒノキの香りで溢れている。
 「ここが東京だなんてやっぱり信じられないなあ」と深呼吸を繰り返す。
 東京都心の自宅から、在来線を乗り継ぐこと2時間のショートトリップ。着いた先には、土地の94%を森林が占めるというもう一つの東京、奥多摩が待っていた。一緒に歩いているのは、「森の演出家」という肩書きを持つ土屋さん。その他にも森林セラピーガイド、火おこしマイスター、アウトドアシェフ、自然観察指導員……などなど面白い肩書きを多数有している。

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未知の細道 No.55

川内 有緒

日本大学芸術学部卒、ジョージタウン大学にて修士号を取得。
コンサルティング会社やシンクタンクに勤務し、中南米社会の研究にいそしむ。その合間に南米やアジアの少数民族や辺境の地への旅の記録を、雑誌や機内誌に発表。2004年からフランス・パリの国際機関に5年半勤務したあと、フリーランスに。現在は東京を拠点に、おもしろいモノや人を探して旅を続ける。書籍、コラムやルポを書くかたわら、イベントの企画やアートスペース「山小屋」も運営。著書に、パリで働く日本人の人生を追ったノンフィクション、『パリでメシを食う。』『バウルを探して〜地球の片隅に伝わる秘密の歌〜』(幻冬舎)がある。「空をゆく巨人」で第16回開高健ノンフィクション賞受賞。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。