さらりと目覚めた朝だった。昨日たらふく飲んだワインも、さらりと消えている。そういえば、卓さんが言っていた。
「ワインが翌日に残るのは、酸化防止剤のせいじゃないかなと思うことがあります。地球の裏側から船便で運んでたら、そりゃたくさん必要かもしれない。でも勝沼のワインは違うんです。そこのブドウを、そこの酒造に運んで、そのままこの店に届く。ぜんぶ軽トラで済む距離なんです」
翌朝に残る余韻があるとすれば、昨晩の楽しい記憶だけ、というわけだ。
その夜、泊まらせてもらったのは「山梨石和シェアエコハウス」。同乗者の二人も、僕も一緒に、だ。アテンドしてくれたのは安福可奈子さん。安福さんは、以前、MeLikeで取材されたことがあり、ひとりさんとは、それ以来のご縁。ここは、シェアオフィス、ゲストハウスの機能もあり、山梨の新たな拠点として注目が集まりそうだ。一度取材して終わりではく、こうして「続き」があることも、MeLikeの旅の魅力かもしれない。
安福さんは実は会社員。都内でサロンや飲食店を展開する企業の広報を務めているが、数ヶ月前、山梨石和シェアエコハウスの立ち上げのため、山梨に移住することになったという。
「広報の仕事って、自分の会社を客観視する必要があると思うんです。国の政策や見聞を広げるのはもちろん、事業に関わる方々のことを知ったり、会社の活動や魅力を伝えていくことを考えるにも、離れていたほうが考えやすいんですよね。広報は、私自身が会社を応援することで、応援してくれる人を増やす仕事ですから」
安福さんの職場であり住居でもある山梨石和シェアエコハウスだが、その立地と広さを活かしたレンタルスペース事業もはじまっている。新宿から特急で1時間半前後、高速道路からもアクセスしやすい場所にあり、企業研修にはうってつけ。石和温泉もすぐそばにある。
最近では畑も借りて、さっそく山梨に馴染みはじめている安福さんだが、一時は都会暮らしで体調を崩し、地元に帰ることも考えたという。しかし、「退社」という選択肢を選ばずに、会社に相談することで、会社と一緒に「女性の新しい働き方をつくる」という選択肢を生み出した。それがここ山梨石和シェアエコハウスでもあるのだ。「これからの豊かな暮らし」を考えるときに、必ずしも会社を辞める必要はないのかもしれない。東京本社直轄であるべき、と思われがちな「広報」という仕事でも、地方でリモート化できる可能性もあるのだから。
ライター 志賀章人(しがあきひと)