未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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[ 第100回特別企画 ]街にこぼれる素敵な音を追いかけて

常磐自動車道を行く!〔後編 福島・宮城編〕

文= 松本美枝子
写真= 松本美枝子
録音・編集= 白丸たくト
未知の細道 No.100 |25 October 2017
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#10いわき勿来IC 千年前の伝説が残る打ち身の名湯・白米鉱泉

白米鉱泉「つるの湯」に響くお湯の音

 いわき勿来ICを降りて、いよいよ福島県に入った。茨城県との県境、いわき市勿来である。勿来(なこそ)はとても難しい読み方で、「な来そ(来るなかれ)」という意味である。ここには古来より関所が置かれ、関東と東北の交通の要所とされてきたことから、一説によると、北方から来る蝦夷を防ぐための意味とも言われている。
 この勿来の白米地区に、約千年前からの伝説が残る鉱泉があるというので行ってみることにした。勿来ICを降りてすぐの、開業して100年以上になる白米鉱泉「つるの湯」である。この鉱泉には、鶴が身を浸して傷を治し、それを見た村人たちによって湯治場が開かれるようになった、という言い伝えがあり、現在でも打ち身や怪我の名湯として、知る人ぞ知る鉱泉なのだ。

 一見、鉱泉宿があるとは思えないような、畑や家が点在する白米地区の一角に「つるの湯」はあった。敷地の奥には木立が広がり、その手前には、見るからに古そうで小さいお堂がある。女将さんに聞いて見ると、なんと小さいながらも「湯前神社」という立派な神社であり、この鉱泉の守り神なのだという。さすが千年前からの言い伝えがある鉱泉だけのことはある……と拝みながら思った。
 さて昔ながらの湯治場の雰囲気が残るこの鉱泉は、大人が五人も入るといっぱいになるような、こじんまりとしたサイズのお風呂である。浴槽にはアルカリ性の単純泉が、絶え間なくこんこんと浴槽に注がれていく。耳をすますと少し空いた窓からは、木立を通る風の音や虫の声も聞こえてくる。かすかに薬のような匂いがあるお湯は、浸してみるとじんわりと体の芯が温まり、なるほど健康に良さそうだ。
 この白米鉱泉からは海が近いこともあり、一般の人はもちろん、漁業関係の人も多く訪れた。昔はいわき周辺だけでなく、大洗や阿字ヶ浦、遠くは波崎など茨城からも、たくさんの漁業関係の人たちが、怪我をした体を治すために、この鉱泉へ訪れたんですよ、と女将さんは話してくれた。しかし現在は漁業に従事する人も少なくなった。また東日本大震災によって客足が遠のいた時期もあったという。それでも今もなお、ここの泉質が怪我に効く、として、交通事故などの後遺症や打撲、捻挫などを泊りがけでじっくりと湯治しに来る人が絶えないのだそう。

 そしてこの湯治場は、実は今どき珍しい、昔ながらの男女混浴でもある。とはいえ男女別の脱衣所と、女性のみが使用できる時間もきちんと設定されているのでご安心を! 最近の観光地の温泉に慣れていると少しびっくりするかもしれないが、古くから伝わる湯治の文化と、そして昔ながらのいわきを知ることができる場所の一つであることは間違いない。

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未知の細道 No.100

松本美枝子

1974年茨城県生まれ。生と死、日常をテーマに写真と文章による作品を発表。
主な受賞に第15回「写真ひとつぼ展」入選、第6回「新風舎・平間至写真賞大賞」受賞。
主な展覧会に、2006年「クリテリオム68 松本美枝子」(水戸芸術館)、2009年「手で創る 森英恵と若いアーティストたち」(表参道ハナヱ・モリビル)、2010年「ヨコハマフォトフェスティバル」(横浜赤レンガ倉庫)、2013年「影像2013」(世田谷美術館市民ギャラリー)、2014年中房総国際芸術祭「いちはら×アートミックス」(千葉県)、「原点を、永遠に。」(東京都写真美術館)など。
最新刊に鳥取藝住祭2014公式写真集『船と船の間を歩く』(鳥取県)、その他主な書籍に写真詩集『生きる』(共著・谷川俊太郎、ナナロク社)、写真集『生あたたかい言葉で』(新風舎)がある。
パブリックコレクション:清里フォトアートミュージアム
作家ウェブサイト:www.miekomatsumoto.com

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。