
今回の芸術祭は、福島ゆかりのアーティストたちによる表現を通して、震災7年を経た今のFUKUSHIMAを生きる当事者たちの表現を模索する、自分たちにとっても新しい試みだ、と総合ディレクターの山岸さんは語る。
その中でも栗林隆さんや藤井光さん、小林エリカさんやディン・Q・リーさん、中崎透さんといった、いま国内外で活躍しているアーティストたちの力のこもった作品が出品されているのが、非常に印象的だった。
特に中崎さんや小林さんのように、旅館の構造をうまく活かしつつ、東日本大震災の記憶や、この飯坂温泉とも関係のあるラジウムなど放射線の歴史をていねいに開き、見る人に言霊のように響かせていく作品は、この芸術祭を象徴するものだったと思う。


また瀬戸内海の豊島での産業廃棄物の問題を扱った藤井さんの映像作品や、茨城県にある自衛隊の基地問題を扱ったディン・Q・リーさんの映像作品のように、一見、福島から遠く離れた場所の、別の問題のようにも思えるけれども、実は根底に共通することをすくい上げた作品も見ごたえがあった。
他にも鉾井喬さんや、保坂毅さんなど、エネルギーとの共生や動力の循環といった問題をテーマにした作品も考えさせられるものがあった。いずれの展示からも、福島を含んだ私たちが生きる世界が直面する問題に、正面から取り組んでいるアーティストたちの姿勢が透けて見えたように思う。

松本美枝子