未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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プロジェクトFUKUSHIMA! の次なる挑戦

「清山飯坂温泉芸術祭」ができるまで

文= 松本美枝子
写真= 松本美枝子
未知の細道 No.116 |25 JUNE 2018
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#6旅館に散らばる、今を生きる人々の言葉

レジャーランドのような構造を活かし、実際に旅館の中を歩きながら、物語が進んでいく「Like a Rolling Riceball」中崎透

 今回の芸術祭は、福島ゆかりのアーティストたちによる表現を通して、震災7年を経た今のFUKUSHIMAを生きる当事者たちの表現を模索する、自分たちにとっても新しい試みだ、と総合ディレクターの山岸さんは語る。

 その中でも栗林隆さんや藤井光さん、小林エリカさんやディン・Q・リーさん、中崎透さんといった、いま国内外で活躍しているアーティストたちの力のこもった作品が出品されているのが、非常に印象的だった。
 特に中崎さんや小林さんのように、旅館の構造をうまく活かしつつ、東日本大震災の記憶や、この飯坂温泉とも関係のあるラジウムなど放射線の歴史をていねいに開き、見る人に言霊のように響かせていく作品は、この芸術祭を象徴するものだったと思う。

  • 「暗唱の家」藤井光
  • 「百里平和公園:未解決の地」ディン・Q・リー

 また瀬戸内海の豊島での産業廃棄物の問題を扱った藤井さんの映像作品や、茨城県にある自衛隊の基地問題を扱ったディン・Q・リーさんの映像作品のように、一見、福島から遠く離れた場所の、別の問題のようにも思えるけれども、実は根底に共通することをすくい上げた作品も見ごたえがあった。

保坂毅さんの作品で、無電源ラジオの一つ「ゲルマニウムラジオ」を聞くお客さん

 他にも鉾井喬さんや、保坂毅さんなど、エネルギーとの共生や動力の循環といった問題をテーマにした作品も考えさせられるものがあった。いずれの展示からも、福島を含んだ私たちが生きる世界が直面する問題に、正面から取り組んでいるアーティストたちの姿勢が透けて見えたように思う。

災害FM「南相馬ひばりFM」のアーカイブ展示もあった。
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未知の細道 No.116

松本美枝子

1974年茨城県生まれ。生と死、日常をテーマに写真と文章による作品を発表。
主な受賞に第15回「写真ひとつぼ展」入選、第6回「新風舎・平間至写真賞大賞」受賞。
主な展覧会に、2006年「クリテリオム68 松本美枝子」(水戸芸術館)、2009年「手で創る 森英恵と若いアーティストたち」(表参道ハナヱ・モリビル)、2010年「ヨコハマフォトフェスティバル」(横浜赤レンガ倉庫)、2013年「影像2013」(世田谷美術館市民ギャラリー)、2014年中房総国際芸術祭「いちはら×アートミックス」(千葉県)、「原点を、永遠に。」(東京都写真美術館)など。
最新刊に鳥取藝住祭2014公式写真集『船と船の間を歩く』(鳥取県)、その他主な書籍に写真詩集『生きる』(共著・谷川俊太郎、ナナロク社)、写真集『生あたたかい言葉で』(新風舎)がある。
パブリックコレクション:清里フォトアートミュージアム
作家ウェブサイト:www.miekomatsumoto.com

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。