青森県上北郡東北町
宝の湖と呼ばれる青森の小川原湖は、白魚の漁獲高日本一。
徳川家康も好んだ白魚は、繊細すぎて市場には出回らない。
ナイーブすぎる魚を踊り食いできる日本唯一の場所を目指して、北上した。
最寄りのICから【E4A】百石道路「下田百石IC」を下車
最寄りのICから【E4A】百石道路「下田百石IC」を下車
グラスのなかで、2匹の透明で小さな魚が体をくねらせるようにして泳いでいた。だいたい7、8センチほどだろうか。「居酒屋レストラン えびぞう」のご主人、蛯名正直さんが気を利かせてくれて、手元がカラフルに光るグラスに入れてくれたから、その白魚=シラウオの身体も赤、青、緑に色づいて見える。これから僕は一匹の白魚を箸でつまみ、口のなかに放り込むことになる。踊り食いだ。
間違いなく、日本どころか世界でも貴重で希少な瞬間である。え? なんで? シラウオの踊り食いなんて珍しくないでしょう? と思う方もいるかもしれない。それは、世の中の大半の人がしている勘違い。あちこちで踊り食いされているのは、「素魚」と書いて、「シロウオ」と読む。僕が箸をつけようとしているのは、「白魚」と書いて「シラウオ」だ。素魚はハゼ科で、白魚はサケ科。見た目は似ているけど、まったく別の魚である。
「白魚の踊り食い」というメニューを提供しているお店の人は、それが素魚だと知らないのだと僕は断言できる。なぜなら、「白魚の踊り食い」ができるのは日本でひとつ、青森県の東北町にある「居酒屋レストラン えびぞう」だけだから。僕は箸を手に持ちながら、こう考えた。今この瞬間、生きている白魚をそのまま食べようとしているのは恐らく世界でひとり。その味をしっかり嚙みしめよう。