未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
138

青森県上北郡東北町

宝の湖と呼ばれる青森の小川原湖は、白魚の漁獲高日本一。
徳川家康も好んだ白魚は、繊細すぎて市場には出回らない。
ナイーブすぎる魚を踊り食いできる日本唯一の場所を目指して、北上した。

文= 川内イオ
写真= 川内イオ
未知の細道 No.138 |24 May 2019
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青森県上北郡東北町

最寄りのICから【E4A】百石道路「下田百石IC」を下車

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#1似て非なる素魚と白魚

 グラスのなかで、2匹の透明で小さな魚が体をくねらせるようにして泳いでいた。だいたい7、8センチほどだろうか。「居酒屋レストラン えびぞう」のご主人、蛯名正直さんが気を利かせてくれて、手元がカラフルに光るグラスに入れてくれたから、その白魚=シラウオの身体も赤、青、緑に色づいて見える。これから僕は一匹の白魚を箸でつまみ、口のなかに放り込むことになる。踊り食いだ。

 間違いなく、日本どころか世界でも貴重で希少な瞬間である。え? なんで? シラウオの踊り食いなんて珍しくないでしょう? と思う方もいるかもしれない。それは、世の中の大半の人がしている勘違い。あちこちで踊り食いされているのは、「素魚」と書いて、「シロウオ」と読む。僕が箸をつけようとしているのは、「白魚」と書いて「シラウオ」だ。素魚はハゼ科で、白魚はサケ科。見た目は似ているけど、まったく別の魚である。

 「白魚の踊り食い」というメニューを提供しているお店の人は、それが素魚だと知らないのだと僕は断言できる。なぜなら、「白魚の踊り食い」ができるのは日本でひとつ、青森県の東北町にある「居酒屋レストラン えびぞう」だけだから。僕は箸を手に持ちながら、こう考えた。今この瞬間、生きている白魚をそのまま食べようとしているのは恐らく世界でひとり。その味をしっかり嚙みしめよう。

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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。