
会津柳津という山あいの門前町に滞在して圓藏寺という古刹を訪れたり、只見川を木舟で下ったり、辛味の強い野生種の「アサギ大根」でいただく高遠そばを食べたり。自然豊かな奥会津は、都会暮らしの「無いものねだりな」私たちを癒やしてくれた。
そんな旅の途中、立ち寄った道の駅でふと目に止まったのが「奥会津金山 天然炭酸の水」という飲み物だった。「天然炭酸水?それも国産?」と疑いの目を向けつつ裏ラベルをみると、お隣の金山町で製造される本物の天然炭酸水であることが分かった。さっそく飲んでみる。人工の炭酸水とは明らかに違い、柔らかな泡で口が満たされる。
調べてみると、国内で飲料可能な天然炭酸水を販売しているのは、金山と大分県の九重連山のみ。さらに金山の天然炭酸水は、明治時代にヨーロッパへ輸出していた歴史もあるらしい。私は改めて旅の支度を整え、奥会津を再訪した。炭酸の湧く町を訪ねるために。
奥会津の玄関口だった柳津と比べ、金山は山がさらに険しくなり、その分だけ秘境感は増した。ミズナラやブナが自生する森林が蛇行を繰り返す只見川に迫り、そのせいで水面が美しい翡翠色に輝いている。その水源は群馬県と福島県の県境にある尾瀬沼だそうだ。夏の朝の濃霧、秋の紅葉、冬の雪景色と、季節によってガラリと色を変える、まるで風景画のような完璧な自然美。昭和40年代ころまでは茅葺だったという、豪雪地帯特有の大きな屋根をした古民家が立ち並ぶ、ノスタルジックな集落。そんな日本の原風景を留める里山が、現在進行形で保存されている。