
下を見るくらいなら目を瞑ったほうがマシだ。ガシャガシャと鎖を揺らしながら、一手ずつ、一歩ずつ。緊張と筋肉痛が頂点に達したそのとき、崖の頂点に手が届く。最後の力を振り絞って足を上げて半身になり、一気に崖の上に転がりこむ。あご先の汗をぬぐって顔を上げると、目の前に本殿があった。そして後ろを振り返ると、そこには伝えようのない絶景が広がっていた。過剰なアドレナリン分泌に加えて達成感も安心感も。クライマーズハイで目にした光景は写真には写せない。
興奮冷めやらぬ気持ちで、本殿に向かって手を叩く。「無事に帰れますように!」それ以上の願いごとは思いもしなかった。そして気づく。「これ、どうやって降りるんだ?」一瞬にして冷や汗がTシャツの色を変えていく――その後も地獄が続くのだが書く必要はないだろう。太田神社は絶対にオススメしないし、どんな場所でも自分で辿り着いた場所には絶景がある。それが言いたかったのだから。
前編と後編をあわせると絶景の数は20カ所。それぞれ写真も掲載してきたが、僕はカメラを買ったばかりの素人である。だからきっとあなたが訪れたときには、もっと美しく、もっと心動く絶景が見られるはずだ。何よりきっと、自分のまぶたが一番のシャッターであるはずだから。

ライター 志賀章人(しがあきひと)