
「一切の責任は負いません」
血のような赤でそう書かれていた。せたな町の絶壁に立つ“太田神社(別名:太田山神社)”の入り口には、なぜかロープが垂れ下がっているのだが、その理由は石段に足をかけた時点で明白となる。壁を登るような急階段で、踵が浮くほど幅狭なのだ。 北海道最古の由緒ある神社ながら「日本一危険な神社」「エクストリーム参拝」などと恐れられているこの神社。付近一帯はヒグマをはじめ、ブヨ、蚊、ハチ、マムシが頻出する。なぜ登るのか、いや参るのか。それは頂上にある本殿からの景色が絶景らしいからだ。
石段が終わると、その程度の試練は序章にすぎないと言わんばかりの過酷な獣道に突入する。片時もロープを離せない急斜面を登り続けて40分。やっとの思いで森を抜けると、ダイハードな絶壁が待っていた。そう、前編のプロローグで触れた場所だ。足がすくんでカメラも構えられないまま、今にも壊れそうな、いや、すでに若干壊れている橋にしがみつく。そのとき掴んだワイヤロープも解けかけていて、針のような鉄が手に突き刺さる。思わぬ痛みに飛び跳ねると錆び付いた橋がグニャリと揺れる――ヤバすぎる。まさに一切の責任は負えない。この記事を読んだからといって、どうか行かないでほしい。
壁に沿って伸びる壊れかけの橋を這うようにして渡りきると、人ひとり立つのがやっとの頼りない足場に辿り着く。足を滑らせたら崖下まで一直線。転がったりバウンドしたりする余地もなく、200mほどのダイブの末、崖底に体を打ち付ける羽目になる。足の震えが止まらず、壁に背中を貼り付けたまま嫌な想像を振り払う。その背中の絶壁には鉄の鎖が垂れ下がっていて、本殿がその先にあることを示している。高さ7m。3階ぶんの高さを命綱なしでロッククライミングしなければならない。繰り返すがこれでも参拝である。

ライター 志賀章人(しがあきひと)