さあ、いよいよ森に向かう。案内してくれたのは、「香りの道 登計トレイル」。森林セラピーを目的とした全国初の専用ロードである。ちなみに、現在では日本全国に60箇所の「森林セラピー基地」や「セラピーロード」がある。それらは、癒しの効果・病気の予防効果が科学的に認められた場所だけが得られる称号だ。
ゆるやかな坂道を登り始める。道いっぱいに木製チップが敷き詰められているので、歩きやすい。すぐに、赤い巨大キノコが生えているのが目に入った。土屋さんは、「後で食べよう!美味しいですよ」と手を伸ばした。私は絵のように毒々しい色合いに「え、食べるんですか」と内心おののいた。
「あの、食用キノコと毒キノコの見分けがつくんですか?」と失礼ながら聞いてしまう。
「そりゃあ、子供のころからキノコ狩りをしてるので、もちろんわかりますよ」
そりゃそうか。何しろアウトドアクッキングのプロなのだ。
歩きながら、木製チップから醸し出される素晴らしい香りに圧倒された。
なんだっけ、このなつかしい香り。そう、ヒノキだ。素晴らしいお風呂に入っている時のような、なんともいえない感覚に包まれた。
土屋さんは、歩きながら森の効果について解説を続けた。それもセラピーガイドの役割だそうだ。
「森の中で二時間、深呼吸して、二週間もするとNK細胞が活性化します」
「植物が出す“フィトンチット”は、リラックス効果があるんです」
などなど。“フィトンチット”、そのまったく馴染みのないこの物質こそが、どうやら森林浴効果のカギらしい。それは、植物が傷つけられた際に出す殺菌効果がある物質のこと。樹木自身を護る働きがあり、それが人間のストレスにも効果を発揮するらしい。私が森で感じていた頭がすっとしたあの感じ。あれは、紛れもない森の効果だったというわけだ。


川内 有緒