未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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東京の森で深呼吸をしよう 「東京最後の野生児」と歩く
奥多摩

文= 川内有緒
写真= 川内有緒
未知の細道 No.55 |20 Nobember 2015 この記事をはじめから読む

#9さて、森のトレイルへ

 さあ、いよいよ森に向かう。案内してくれたのは、「香りの道 登計トレイル」。森林セラピーを目的とした全国初の専用ロードである。ちなみに、現在では日本全国に60箇所の「森林セラピー基地」や「セラピーロード」がある。それらは、癒しの効果・病気の予防効果が科学的に認められた場所だけが得られる称号だ。
 ゆるやかな坂道を登り始める。道いっぱいに木製チップが敷き詰められているので、歩きやすい。すぐに、赤い巨大キノコが生えているのが目に入った。土屋さんは、「後で食べよう!美味しいですよ」と手を伸ばした。私は絵のように毒々しい色合いに「え、食べるんですか」と内心おののいた。
「あの、食用キノコと毒キノコの見分けがつくんですか?」と失礼ながら聞いてしまう。
「そりゃあ、子供のころからキノコ狩りをしてるので、もちろんわかりますよ」
 そりゃそうか。何しろアウトドアクッキングのプロなのだ。
 歩きながら、木製チップから醸し出される素晴らしい香りに圧倒された。
 なんだっけ、このなつかしい香り。そう、ヒノキだ。素晴らしいお風呂に入っている時のような、なんともいえない感覚に包まれた。
 土屋さんは、歩きながら森の効果について解説を続けた。それもセラピーガイドの役割だそうだ。
「森の中で二時間、深呼吸して、二週間もするとNK細胞が活性化します」
「植物が出す“フィトンチット”は、リラックス効果があるんです」
 などなど。“フィトンチット”、そのまったく馴染みのないこの物質こそが、どうやら森林浴効果のカギらしい。それは、植物が傷つけられた際に出す殺菌効果がある物質のこと。樹木自身を護る働きがあり、それが人間のストレスにも効果を発揮するらしい。私が森で感じていた頭がすっとしたあの感じ。あれは、紛れもない森の効果だったというわけだ。


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未知の細道 No.55

川内 有緒

日本大学芸術学部卒、ジョージタウン大学にて修士号を取得。
コンサルティング会社やシンクタンクに勤務し、中南米社会の研究にいそしむ。その合間に南米やアジアの少数民族や辺境の地への旅の記録を、雑誌や機内誌に発表。2004年からフランス・パリの国際機関に5年半勤務したあと、フリーランスに。現在は東京を拠点に、おもしろいモノや人を探して旅を続ける。書籍、コラムやルポを書くかたわら、イベントの企画やアートスペース「山小屋」も運営。著書に、パリで働く日本人の人生を追ったノンフィクション、『パリでメシを食う。』『バウルを探して〜地球の片隅に伝わる秘密の歌〜』(幻冬舎)がある。「空をゆく巨人」で第16回開高健ノンフィクション賞受賞。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。