土屋さんが再び奥多摩に戻ってきた2009年ごろ、彼にとってとても幸運な変化が起こっていた。まず、奥多摩で東京初の森林セラピートレイルが整備されたこと。そして、ガイドとしての資格制度が始まったことだ。森と生きようと願っていた土屋さんは、「これだ!」とばかりに、急いで資格試験を受けた。そしてみごとに、奥多摩市の森林セラピーガイド第1号としての認定を受けた。仕事として森を歩けることに大きな喜びを感じ、これこそが自分の求めていた仕事だ、天職だと実感した。
しかし、それから一年数ヶ月が経った頃、東日本大震災が起こる。
「3.11後は自粛ムードもあり、青梅・奥多摩にもお客さんがまったく訪れなくなりました。仕事として山に行けなくなり、家にいることも多くなった。いやがおうにも、自分はこれからも森林セラピストとして生きていけるのかと考え始めたんです」
ちょうどその頃、被災地に震災の現状を見にいき、いかに人間が自然に対して無力か、そしてコミュニティの希薄さを思い知った。その時、急に「何かが降りてきた」。自分が次のステージでやるべきことが見えたのだ。
それは、人がコミュニティのつながりを取り戻し、さらに森の中で、「野生」を取り戻す手伝いをすることだった。五感をフルに使って、ものごとを感じとる。それは、自分自身の体の状態に気づくことでもある。それは、「癒し」や「セラピー」から一歩先に進んだ活動になる。
「でも、本当に仕事になるのかは不安でした。本当にこれで暮らしていけるのかなって」
しかし、思いついた以上にやるしかない。公認の森林セラピーの活動を続ける傍で、活動を開始した。最初に乗り出したのは、その拠点となる古民家を借りることだった。

川内 有緒