未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
57

おれを鍋にまぜてくれないかい? “鍋の日”に起きた
南部町の奇跡


青森県南部町

ある日、ツイッターを眺めていたら
青森県の南部町が「毎月22日は鍋の日」と制定し、
町民に鍋を食べることを推奨していると知った。
なにそれ? という単純な疑問がやがて「おれも鍋の日に鍋に混ぜてほしい!」
という熱き想いに変わるのに、 それほど時間はかからなかった。
11月22日、僕は南部町に向かった。もちろん、アポなしで。 

文= 川内イオ
写真= 川内イオ
未知の細道 No.57 |20 December 2015
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青森県

最寄りのICから八戸自動車道「南郷IC」を下車

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#1夕闇に追い詰められて

17時の「名川チェリーセンター」。赤いエプロンをつけているのは従業員の方々で、客の姿はまばらだった

 11月22日、午後5時過ぎの青森は、すでに日が暮れて夜のとばりが下り始めていた。
 ハンドルを握る僕は、思わず「これは危機的状況です!」と口にしていた。まるで誰かに緊急報告を入れているようだが、車内には自分の他に誰もいない。そう、単なる独り言。無駄な敬語が、我ながら焦りを感じさせる。
 頭の中では、ほんの数分前に農産物の直売所「名川チェリーセンター」でレジのおじさんに聞いた言葉が、リフレインしていた。
「にいちゃん、ちょっと来るのが遅すぎたね。ここらへんの人は、夕飯の買い物はもっと早い時間帯にするんだ」
 僕は、チェリーセンターで鍋の具材を買っている人を探しに来たのだが、確かに、ちょうど5時頃にチェリーセンターに着いた時点で、ほとんどお客さんの姿は見えなかった。その場で少し待ってみたけど、これからお客さんがやってきそうな気配もない。閉店時間の17時半まで粘るという選択肢もあったが、僕の直感はこう告げていた。
「最後の可能性に賭けよ!」
 小走りで車に戻ってエンジンをかけた瞬間、ジャッ、ジャッ、ジャーラ、ジャッ、ジャッ、ジャーラ……と映画『ミッションインポッシブル』のテーマ曲を口ずさんでいた。
 何をそう焦っているのかは後で説明するとして、僕の気分はもうトム・クルーズ演じる主人公イーサン・ハントだった。僕が操るのは、イーサンが100%乗らないであろう小さな軽自動車だったけど、そんなことも関係ない。みるみるうちに暗くなる空を睨みつけながら、恐らくは最後のチャンスになるであろう目的地に向かってアクセルを踏んだ。
 目指すは、ほのぼの館!


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未知の細道 No.57

川内イオ

1979年生まれ、千葉県出身。広告代理店勤務を経て2003年よりフリーライターに。
スポーツノンフィクション誌の企画で2006年1月より5ヵ月間、豪州、中南米、欧州の9カ国を周り、世界のサッカーシーンをレポート。
ドイツW杯取材を経て、2006年9月にバルセロナに移住した。移住後はスペインサッカーを中心に取材し各種媒体に寄稿。
2010年夏に完全帰国し、デジタルサッカー誌編集部、ビジネス誌編集部を経て、現在フリーランスのエディター&ライターとして、スポーツ、旅、ビジネスの分野で幅広く活動中。
著書に『サッカー馬鹿、海を渡る~リーガエスパニョーラで働く日本人』(水曜社)。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。