
千葉県神崎町
ある春の日、発酵、発酵♪ と繰り返す不思議な盆踊りが鳴り響いていた。それは、酒蔵や豆腐屋さんが立ち並ぶ小さな町、千葉県の神崎。そこに行けば発酵食品の不思議な魅力に触れられるのかもと思い、私は短い旅に出た。出会ったのは、食べ物だけではなく、「発酵する人生」を歩む人々だった。

最寄りのICから圏央道「神崎IC」を下車
最寄りのICから圏央道「神崎IC」を下車

♪ 朝は一杯 お味噌汁 ぬかづけ 納豆 マイグルト
♪ 腸内細菌 手を取り踊れば 天下泰平 発酵!
♪ はい、発酵、発酵 ぐーるぐる!(『発酵盆踊り』)
三月のある土曜日。人口6千人余りの小さな町に、この奇妙な盆踊りソングがガンガンと鳴り響き、無数の人々がクルクルと舞っていた。目撃者によると、その人々はこの上なく幸福そうに見えたそうだ。それも、これも“発酵”とやらのおかげなのだろうか? いや、間違いない。なにしろ、発酵とは愛と平和の世界なのだから……。
いきなり話は変わるが、現在1歳の私の娘は、発酵食品をこよなく愛している。豆腐や味噌、チーズも大好きだが、そのチャンピオンはなんといっても納豆。「とー!とー!」と叫んで冷蔵庫を指差す娘に、私はいつも困惑気味だ。
「なにがそんなに好きなの?」
納豆ファンではない私は、なんとなくそのパッケージを裏返した。原材料の欄には、「大豆、納豆菌」。
あ、納豆って“菌”だったのか。ふむふむ。
そして愕然とした。発酵っていったいなんだろう? どうして長期保存ができるのか。どうして体にいいのか。ええっと、確か、微生物がなんか関係しているような、してないような……。私は発酵のメカニズムについてなにひとつ知らなかった。
日本人として、これでいいのか。
こうして、私の発酵を知るための小旅行は始まった。
行き先は、千葉県の神崎(こうざき)。利根川の流域にある、千葉県で一番人口が少ない小さな町。実は今ここに、発酵ラヴァーたちの熱い視線が集まっているのだ。

川内 有緒