未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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人も町も発酵する小さな王国・神崎 歌って、踊って、ぐるぐる回って、さあ発酵!

人も町も発酵する小さな王国・神崎 歌って、踊って、ぐるぐる回って、さあ発酵!


千葉県神崎町

ある春の日、発酵、発酵♪ と繰り返す不思議な盆踊りが鳴り響いていた。それは、酒蔵や豆腐屋さんが立ち並ぶ小さな町、千葉県の神崎。そこに行けば発酵食品の不思議な魅力に触れられるのかもと思い、私は短い旅に出た。出会ったのは、食べ物だけではなく、「発酵する人生」を歩む人々だった。

文= 川内有緒
写真= 川内有緒
未知の細道 No.64 |10 April 2016
  • 名人
  • 伝説
  • 挑戦者
  • 穴場
千葉県

最寄りのICから圏央道「神崎IC」を下車

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#1謎の盆踊りと発酵食品の不思議

 ♪ 朝は一杯 お味噌汁 ぬかづけ 納豆 マイグルト
 ♪ 腸内細菌 手を取り踊れば 天下泰平 発酵!
 ♪ はい、発酵、発酵 ぐーるぐる!(『発酵盆踊り』)

 

 三月のある土曜日。人口6千人余りの小さな町に、この奇妙な盆踊りソングがガンガンと鳴り響き、無数の人々がクルクルと舞っていた。目撃者によると、その人々はこの上なく幸福そうに見えたそうだ。それも、これも“発酵”とやらのおかげなのだろうか? いや、間違いない。なにしろ、発酵とは愛と平和の世界なのだから……。

 

 いきなり話は変わるが、現在1歳の私の娘は、発酵食品をこよなく愛している。豆腐や味噌、チーズも大好きだが、そのチャンピオンはなんといっても納豆。「とー!とー!」と叫んで冷蔵庫を指差す娘に、私はいつも困惑気味だ。
「なにがそんなに好きなの?」
 納豆ファンではない私は、なんとなくそのパッケージを裏返した。原材料の欄には、「大豆、納豆菌」。
 あ、納豆って“菌”だったのか。ふむふむ。
 そして愕然とした。発酵っていったいなんだろう? どうして長期保存ができるのか。どうして体にいいのか。ええっと、確か、微生物がなんか関係しているような、してないような……。私は発酵のメカニズムについてなにひとつ知らなかった。
 日本人として、これでいいのか。
 こうして、私の発酵を知るための小旅行は始まった。
 行き先は、千葉県の神崎(こうざき)。利根川の流域にある、千葉県で一番人口が少ない小さな町。実は今ここに、発酵ラヴァーたちの熱い視線が集まっているのだ。

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未知の細道 No.64

川内 有緒

日本大学芸術学部卒、ジョージタウン大学にて修士号を取得。
コンサルティング会社やシンクタンクに勤務し、中南米社会の研究にいそしむ。その合間に南米やアジアの少数民族や辺境の地への旅の記録を、雑誌や機内誌に発表。2004年からフランス・パリの国際機関に5年半勤務したあと、フリーランスに。現在は東京を拠点に、おもしろいモノや人を探して旅を続ける。書籍、コラムやルポを書くかたわら、イベントの企画やアートスペース「山小屋」も運営。著書に、パリで働く日本人の人生を追ったノンフィクション、『パリでメシを食う。』『バウルを探して〜地球の片隅に伝わる秘密の歌〜』(幻冬舎)がある。「空をゆく巨人」で第16回開高健ノンフィクション賞受賞。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。