未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
70

北海道札幌市

ある日、出会った一人のギャラリスト。北海道からやってきた彼は、なんと弁護士でもあるという。弁護士が運営するギャラリーとは、いったいどんなスペースなのだろう?それを確かめに、初夏の札幌へと飛んだ。

文= 松本美枝子
写真= 松本美枝子
未知の細道 No.70 |10 July 2016
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北海道

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#1札幌からきたギャラリスト

サロンコジカで出版している展覧会の記録集。

ある日の夕方。そういえば今日、札幌からお客さんが来るよ。とスタジオメンバーのトオルくんが言いだした。
私の仕事場は、アーティストやデザイナー、音楽家、アートマネジャーたちが共同で運営するスタジオ兼ギャラリー、今風にいうとアーティスト・ラン・スペースなのだ。
誰でもウェルカムな場所だから、お客さんが展示を見にやってきたり、各地から美術関係者が遊びに来たりする。

そのお客さんは川上大雅さんといって、まだ若いのだけれど、札幌で「サロンコジカ」というコマーシャルギャラリーを開いているそうだ。
コマーシャルギャラリーとは、スペースの貸し出しはせずに、主に契約している作家を中心に企画展を行い、その作品を販売するギャラリーである。

なんて話をしていると、噂のギャラリスト、川上さんが、こんにちはー、と言って我がスタジオへとやってきたのであった。
30代半ばくらいだろうか、長身で、服装も髪型もとてもオシャレな川上さん、いかにも「アート界隈の住人」……という雰囲気を醸し出していた。

だけどその後、トオルくんの一言でとても驚いてしまった。
「あ、そうだ、美枝子。言い忘れたけど、タイガ君って、すご腕の弁護士でもあるから!」

へ!? 弁護士? 弁護士やりながら、ギャラリーのオーナー? そんなことできるの?
頭の中にたくさんの「?」が並んだ。
美術業界にはいろんな人がいて、いわゆる二足のわらじを履いている人はけっこういる。例えば私はフォトグラファーで、文章も書く。私みたいな二足のわらじの履き方は、案外多い。
でも「ギャラリストが弁護士でもある」というのは、二つの業種があまりにも遠すぎて、聞いたことがなかったからだ。
驚いて、矢継ぎ早に、しかも不躾な質問ばかりする私に、川上さん、いや大雅さんは、ニコニコしながら丁寧に一つずつ答えてくれたのであった。

大雅さんが帰った後も、「サロンコジカ」への興味はつきなかった。
例えばアート好きなお医者さんで、素晴らしいコレクターでもある、などというのはよくある話だ。きっと、弁護士でもいるだろう。それにもしかしたら、出資だけしているギャラリーオーナー、とかならいるかもしれない。
けれども大雅さんは、「片手間の趣味ではなく、本業の一つとしてギャラリストでもある」と私に言ったのだった。おそらく日本で、弁護士が「ガチ」で開いているコマーシャルギャラリー、というのは、存在しないのではないだろうか?
一体どんなギャラリーなのだろう、これは札幌に確かめに行くしかない。

サロンコジカのオーナーでギャラリスト兼弁護士の川上大雅さん。
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未知の細道 No.70

松本美枝子

1974年茨城県生まれ。生と死、日常をテーマに写真と文章による作品を発表。
主な受賞に第15回「写真ひとつぼ展」入選、第6回「新風舎・平間至写真賞大賞」受賞。
主な展覧会に、2006年「クリテリオム68 松本美枝子」(水戸芸術館)、2009年「手で創る 森英恵と若いアーティストたち」(表参道ハナヱ・モリビル)、2010年「ヨコハマフォトフェスティバル」(横浜赤レンガ倉庫)、2013年「影像2013」(世田谷美術館市民ギャラリー)、2014年中房総国際芸術祭「いちはら×アートミックス」(千葉県)、「原点を、永遠に。」(東京都写真美術館)など。
最新刊に鳥取藝住祭2014公式写真集『船と船の間を歩く』(鳥取県)、その他主な書籍に写真詩集『生きる』(共著・谷川俊太郎、ナナロク社)、写真集『生あたたかい言葉で』(新風舎)がある。
パブリックコレクション:清里フォトアートミュージアム
作家ウェブサイト:www.miekomatsumoto.com

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。