
北海道札幌市
ある日、出会った一人のギャラリスト。北海道からやってきた彼は、なんと弁護士でもあるという。弁護士が運営するギャラリーとは、いったいどんなスペースなのだろう?それを確かめに、初夏の札幌へと飛んだ。
最寄りのICから札樽自動車道「札幌北IC」を下車
最寄りのICから札樽自動車道「札幌北IC」を下車

ある日の夕方。そういえば今日、札幌からお客さんが来るよ。とスタジオメンバーのトオルくんが言いだした。
私の仕事場は、アーティストやデザイナー、音楽家、アートマネジャーたちが共同で運営するスタジオ兼ギャラリー、今風にいうとアーティスト・ラン・スペースなのだ。
誰でもウェルカムな場所だから、お客さんが展示を見にやってきたり、各地から美術関係者が遊びに来たりする。
そのお客さんは川上大雅さんといって、まだ若いのだけれど、札幌で「サロンコジカ」というコマーシャルギャラリーを開いているそうだ。
コマーシャルギャラリーとは、スペースの貸し出しはせずに、主に契約している作家を中心に企画展を行い、その作品を販売するギャラリーである。
なんて話をしていると、噂のギャラリスト、川上さんが、こんにちはー、と言って我がスタジオへとやってきたのであった。
30代半ばくらいだろうか、長身で、服装も髪型もとてもオシャレな川上さん、いかにも「アート界隈の住人」……という雰囲気を醸し出していた。
だけどその後、トオルくんの一言でとても驚いてしまった。
「あ、そうだ、美枝子。言い忘れたけど、タイガ君って、すご腕の弁護士でもあるから!」
へ!? 弁護士? 弁護士やりながら、ギャラリーのオーナー? そんなことできるの?
頭の中にたくさんの「?」が並んだ。
美術業界にはいろんな人がいて、いわゆる二足のわらじを履いている人はけっこういる。例えば私はフォトグラファーで、文章も書く。私みたいな二足のわらじの履き方は、案外多い。
でも「ギャラリストが弁護士でもある」というのは、二つの業種があまりにも遠すぎて、聞いたことがなかったからだ。
驚いて、矢継ぎ早に、しかも不躾な質問ばかりする私に、川上さん、いや大雅さんは、ニコニコしながら丁寧に一つずつ答えてくれたのであった。
大雅さんが帰った後も、「サロンコジカ」への興味はつきなかった。
例えばアート好きなお医者さんで、素晴らしいコレクターでもある、などというのはよくある話だ。きっと、弁護士でもいるだろう。それにもしかしたら、出資だけしているギャラリーオーナー、とかならいるかもしれない。
けれども大雅さんは、「片手間の趣味ではなく、本業の一つとしてギャラリストでもある」と私に言ったのだった。おそらく日本で、弁護士が「ガチ」で開いているコマーシャルギャラリー、というのは、存在しないのではないだろうか?
一体どんなギャラリーなのだろう、これは札幌に確かめに行くしかない。


松本美枝子