未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
70

ギャラリストは弁護士先生。

ギャラリー サロンコジカ

文= 松本美枝子
写真= 松本美枝子
未知の細道 No.70 |25 May 2016
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#10作家を「弁護」するギャラリー

大雅さんにどうしても聞いてみたいことが、私にはもう一つあった。 弁護士とギャラリスト、このかけ離れた全く違う仕事を、どうやって日々、並行してやっているのだろう、と。

しかし大雅さんは、あっさり私に、こういった。
「いや、僕の中で二つの仕事に違いはないんですよ。同じです」
交通事故、離婚、7月の展示、8月の展示……そんなふうに僕の中では、等しく同じ仕事として日々こなしているんです。

大雅さんはさらにこう続けた。「昔、伊藤隆介さん(北海道出身の美術家、映像作家)に言われたことがあるんです。ロナルド・フェルドマンを目指したらいいよ、って」
ロナルド・フェルドマンはニューヨークの高名なギャラリストだ。
フェルドマンは、「社会彫刻」で有名なドイツの偉大なアーティスト、ヨーゼフ・ボイスなどを扱っていた。ボイスは常に現代社会の問題を提起する作品を作り続けた作家である。そしてフェルドマンは弁護士でもあった。

弁護士として仕事をしていると、日々、どうにもならない現実を目の当たりにすることもある。

「そこには自分の理想は関係なくて、起きてしまったこと、刻々と変わっていくことに対して、誠実に向き合っていくしかない。それが法律家として考えることです。だからギャラリーを行う上でも、観に来る人や作家たち、美術を取り巻く人たちにとって、一番いいことはなんだろう、っていつも考えているんです。
どちらの仕事にもステレオタイプはないんですよね。それも同じです」と大雅さんは言うのであった。

クライアントの話をよく聞き、クライアントを全力で守ること。それが弁護士の仕事だとしたら、作家の話をよく聞き、作家を全力で守ること、それがギャラリストの仕事なのだ。「サロンコジカ」というギャラリーは、ギャラリストが責任持って作品と作家を弁護している、そんな空間なのかもしれない。すっかり夜になったサロンコジカのホワイトキューブの中で、美しい作品を見ながら、そんなことを考えていた。

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未知の細道 No.70

松本美枝子

1974年茨城県生まれ。生と死、日常をテーマに写真と文章による作品を発表。
主な受賞に第15回「写真ひとつぼ展」入選、第6回「新風舎・平間至写真賞大賞」受賞。
主な展覧会に、2006年「クリテリオム68 松本美枝子」(水戸芸術館)、2009年「手で創る 森英恵と若いアーティストたち」(表参道ハナヱ・モリビル)、2010年「ヨコハマフォトフェスティバル」(横浜赤レンガ倉庫)、2013年「影像2013」(世田谷美術館市民ギャラリー)、2014年中房総国際芸術祭「いちはら×アートミックス」(千葉県)、「原点を、永遠に。」(東京都写真美術館)など。
最新刊に鳥取藝住祭2014公式写真集『船と船の間を歩く』(鳥取県)、その他主な書籍に写真詩集『生きる』(共著・谷川俊太郎、ナナロク社)、写真集『生あたたかい言葉で』(新風舎)がある。
パブリックコレクション:清里フォトアートミュージアム
作家ウェブサイト:www.miekomatsumoto.com

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。