大雅さんにどうしても聞いてみたいことが、私にはもう一つあった。 弁護士とギャラリスト、このかけ離れた全く違う仕事を、どうやって日々、並行してやっているのだろう、と。
しかし大雅さんは、あっさり私に、こういった。
「いや、僕の中で二つの仕事に違いはないんですよ。同じです」
交通事故、離婚、7月の展示、8月の展示……そんなふうに僕の中では、等しく同じ仕事として日々こなしているんです。
大雅さんはさらにこう続けた。「昔、伊藤隆介さん(北海道出身の美術家、映像作家)に言われたことがあるんです。ロナルド・フェルドマンを目指したらいいよ、って」
ロナルド・フェルドマンはニューヨークの高名なギャラリストだ。
フェルドマンは、「社会彫刻」で有名なドイツの偉大なアーティスト、ヨーゼフ・ボイスなどを扱っていた。ボイスは常に現代社会の問題を提起する作品を作り続けた作家である。そしてフェルドマンは弁護士でもあった。
弁護士として仕事をしていると、日々、どうにもならない現実を目の当たりにすることもある。
「そこには自分の理想は関係なくて、起きてしまったこと、刻々と変わっていくことに対して、誠実に向き合っていくしかない。それが法律家として考えることです。だからギャラリーを行う上でも、観に来る人や作家たち、美術を取り巻く人たちにとって、一番いいことはなんだろう、っていつも考えているんです。
どちらの仕事にもステレオタイプはないんですよね。それも同じです」と大雅さんは言うのであった。
クライアントの話をよく聞き、クライアントを全力で守ること。それが弁護士の仕事だとしたら、作家の話をよく聞き、作家を全力で守ること、それがギャラリストの仕事なのだ。「サロンコジカ」というギャラリーは、ギャラリストが責任持って作品と作家を弁護している、そんな空間なのかもしれない。すっかり夜になったサロンコジカのホワイトキューブの中で、美しい作品を見ながら、そんなことを考えていた。

松本美枝子