未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
70

ギャラリストは弁護士先生。

ギャラリー サロンコジカ

文= 松本美枝子
写真= 松本美枝子
未知の細道 No.70 |25 May 2016
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#9サロンコジカを支える人たち

日もだいぶ暮れてきた頃、ただいま~と一人の女性が帰ってきた。大雅さんの奥さん、麻香さんである。
麻香さんは普段は薬剤師として、薬局で働いている。

麻香さんはこれまで、大雅さんがしてきた数々の突飛なことに、驚いたり反対することはなかったのだろうか?
すると麻香さんは「私はどんなことが起きても、これはすべて想定内だ! って思うようにしてるんです。そうすると何が起きても大丈夫」とにっこりしながら言う。
うーん、これは一枚上手の女性だなあ……と私は麻香さんのほんわかした笑顔を見て思った。
麻香さんはアートフェアなどの出張について行って裏方として働くことはあるが、本業はやっぱり薬剤師だ。麻香さんが外で働くのも、もしも何かあったら、いつでも自分がサロンコジカを支えられるようにするためなのだそうだ。
自分はギャラリーの表に立つわけではないけれど、もっと広い世界に出ていけるギャラリーになってほしい——そのためにも日々、自分の仕事をする麻香さんなのであった。

さて、すっかり日が暮れて、一人の常連客がやってきた。門間さんである。
門間さんは公立の美術館の学芸員でもある。いわば美術の世界のプロだ。
そんな門間さんにとって、サロンコジカの面白さとは何なのか、聞いてみた。

作品を前に門間さんと語り合う。

「このギャラリーには、アートを身構えないで見せる、そんな工夫がありますよね」と門間さんはいう。
例えば公立の美術館や博物館にはどうしても必要な「この展覧会を今の世に見せる!」というような使命感は、ここにはない。 実はコマーシャルギャラリーも、案外、公立の施設のそんな雰囲気に引っ張られた企画を立てがちだけど、サロンコジカにはそれがないのだ、と門間さんは言う。
あくまでも大雅さんの好みを基準にして作品をセレクトする。肩肘を張らないで展示を見られる、そういう美術の楽しみ方を優先させた企画が多い。だけどその先にアートって良いものだな、とお客さんに感じさせる、そんなムードがあるのが、ここの一番良いところだ、と門間さんは重ねて言った。
美術館や教科書で見る作品ばかりが美術ではない。美術が多様であることをみんなに知ってほしい。
「だから、僕はここの展示をすごく信頼しているんです」と門間さんは語ってくれたのだった。

こういう高度な鑑賞者が常連客としてついているサロンコジカは、恵まれたギャラリーだなあ、と私は門間さんの話を聞いて思ったのだった。

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未知の細道 No.70

松本美枝子

1974年茨城県生まれ。生と死、日常をテーマに写真と文章による作品を発表。
主な受賞に第15回「写真ひとつぼ展」入選、第6回「新風舎・平間至写真賞大賞」受賞。
主な展覧会に、2006年「クリテリオム68 松本美枝子」(水戸芸術館)、2009年「手で創る 森英恵と若いアーティストたち」(表参道ハナヱ・モリビル)、2010年「ヨコハマフォトフェスティバル」(横浜赤レンガ倉庫)、2013年「影像2013」(世田谷美術館市民ギャラリー)、2014年中房総国際芸術祭「いちはら×アートミックス」(千葉県)、「原点を、永遠に。」(東京都写真美術館)など。
最新刊に鳥取藝住祭2014公式写真集『船と船の間を歩く』(鳥取県)、その他主な書籍に写真詩集『生きる』(共著・谷川俊太郎、ナナロク社)、写真集『生あたたかい言葉で』(新風舎)がある。
パブリックコレクション:清里フォトアートミュージアム
作家ウェブサイト:www.miekomatsumoto.com

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。