そんなキョンちゃんがゲストハウスを通じて目指すのは、「これまで下諏訪になかった役割を果たすこと」だと言う。つまりは周囲と競合するのではなく、場所と場所をつないで共存する役割を選んだ。
「新しくゲストハウスができることによって、新たなお客さんや、外国の人がここに来て、下諏訪を好きになってくれたら嬉しい」
また、地元の人たちと外から来た宿泊者が交流できるようにと、ゲストハウスの中にはバーも作った。
「バーではご飯も食べられるんですか?」と聞くと、キョンちゃんはいえ、と首を横に振った。「食事は外にいい場所がいっぱいあるから、そっちに行ってもらいたんです。お風呂も外の公共浴場に行ってもらいたいから、シャワールームはあるけど、お風呂場はあえて作りませんでした」
そう言いながら、楽しそうに下諏訪の観光マップを取り出した。
「ここはすごく素敵な古道具屋さん。こっちはガレット屋さんで、すっごく美味しいです! 蔵を改修したカフェもあって、えーと、ここです。こっちは、カナダ人の男の子がやってるモーニングを出すカフェ。あ、夜だけ開くコーヒーのお店もあって、オーナーさんとおしゃべりすると楽しいですよ」
そう言いながら、次々と地図に印をつけていく。
「お風呂屋さんのオススメはありますか?」と私は聞いた。
「徒歩10分圏内に公共浴場が5件あります。朝と夜で違うお風呂に入りに行く人もいますよ。お湯の温度も全部違うんです」
そう言いながら、「ここはレトロで内装も可愛くてお湯の温度は42℃で、こっちは打たせ湯もあって……」と地図にお湯の温度や特徴までしっかり書き込んでくれる。
最後に、「ここでは、浴場に入る時、みんな『こんにちは』って挨拶をして入っていくんですよ」と教えてくれた。お、それは貴重な情報だ。いきなり、作法を知らない無礼者にはなりたくないもの。
ぶらぶらとゆったりと街に出た。街と言ってもどこもかしこも徒歩10分圏内。遠くても20分ほどのようだ。

川内 有緒