未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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ゲストハウスと公共温泉巡りのススメ

下諏訪で見つけたホカホカな旅

文= 川内有緒
写真= 川内有緒
未知の細道 No.88 |10 April 2017
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#3お風呂でこんにちは

 そんなキョンちゃんがゲストハウスを通じて目指すのは、「これまで下諏訪になかった役割を果たすこと」だと言う。つまりは周囲と競合するのではなく、場所と場所をつないで共存する役割を選んだ。

「新しくゲストハウスができることによって、新たなお客さんや、外国の人がここに来て、下諏訪を好きになってくれたら嬉しい」

 また、地元の人たちと外から来た宿泊者が交流できるようにと、ゲストハウスの中にはバーも作った。

「バーではご飯も食べられるんですか?」と聞くと、キョンちゃんはいえ、と首を横に振った。「食事は外にいい場所がいっぱいあるから、そっちに行ってもらいたんです。お風呂も外の公共浴場に行ってもらいたいから、シャワールームはあるけど、お風呂場はあえて作りませんでした」

 そう言いながら、楽しそうに下諏訪の観光マップを取り出した。

「ここはすごく素敵な古道具屋さん。こっちはガレット屋さんで、すっごく美味しいです! 蔵を改修したカフェもあって、えーと、ここです。こっちは、カナダ人の男の子がやってるモーニングを出すカフェ。あ、夜だけ開くコーヒーのお店もあって、オーナーさんとおしゃべりすると楽しいですよ」

 そう言いながら、次々と地図に印をつけていく。

「お風呂屋さんのオススメはありますか?」と私は聞いた。

「徒歩10分圏内に公共浴場が5件あります。朝と夜で違うお風呂に入りに行く人もいますよ。お湯の温度も全部違うんです」

 そう言いながら、「ここはレトロで内装も可愛くてお湯の温度は42℃で、こっちは打たせ湯もあって……」と地図にお湯の温度や特徴までしっかり書き込んでくれる。

 最後に、「ここでは、浴場に入る時、みんな『こんにちは』って挨拶をして入っていくんですよ」と教えてくれた。お、それは貴重な情報だ。いきなり、作法を知らない無礼者にはなりたくないもの。

 ぶらぶらとゆったりと街に出た。街と言ってもどこもかしこも徒歩10分圏内。遠くても20分ほどのようだ。

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未知の細道 No.88

川内 有緒

日本大学芸術学部卒、ジョージタウン大学にて修士号を取得。
コンサルティング会社やシンクタンクに勤務し、中南米社会の研究にいそしむ。その合間に南米やアジアの少数民族や辺境の地への旅の記録を、雑誌や機内誌に発表。2004年からフランス・パリの国際機関に5年半勤務したあと、フリーランスに。現在は東京を拠点に、おもしろいモノや人を探して旅を続ける。書籍、コラムやルポを書くかたわら、イベントの企画やアートスペース「山小屋」も運営。著書に、パリで働く日本人の人生を追ったノンフィクション、『パリでメシを食う。』『バウルを探して〜地球の片隅に伝わる秘密の歌〜』(幻冬舎)がある。「空をゆく巨人」で第16回開高健ノンフィクション賞受賞。

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「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
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