最初に向かったのは、ゲストハウスから歩いて3分の「菅野温泉」。キョンちゃんが一番好きなのは、ここだそうだ。
レトロなファアードを抜けると、中には番台があり、おばちゃんが一人座っていた。両脇には古い下駄箱がずらり。ここは、なにもかも昭和のまんまだ。
教えられた通りに、「こんにちは」と小さく声をかけ、浴場の引き戸を開けた。午後3時だというのに、四人ほどの先客がいて、「こんにちは」と丁寧に挨拶を返してくれた。
その小さな浴場を見渡して、おっ! と思った。ものすごーくメルヘンチックな空間なのだ。明るいピンクのタイルが張り巡らされた浴場の中心には、楕円形の小さな浴槽がちょこんとある。タイルにはヨーロッパのお城の絵。空間全体がとってもかわいらしい。
私がよほど新参者に見えたのだろう。すぐに小さな男の子を連れたおばあちゃんが「どこから来たの?」話しかけてくれた。
「東京です!」
「まあ、そんなに遠くから、よく来たわねえ!」
「公共浴場巡りをしてるんです」
「あら、いいじゃない!」
そんな感じで、自然に会話が始まった。日本全国の温泉に行っているが、こんな展開はけっこう珍しい。その人懐っこさを目の当たりにして、異国に来たみたいな気分になる。
「いつもここにきているんですか?」と聞き返すと、「だいたい毎日来てるわね! 家にもお風呂はあるけど、こっちの方がずっといいもの」と微笑んで答える。
おしゃべりをしながら体を流し、私も湯船に浸かった。キョンちゃん情報によれば、ここのお湯の温度は42℃。

川内 有緒