未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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ゲストハウスと公共温泉巡りのススメ

下諏訪で見つけたホカホカな旅

文= 川内有緒
写真= 川内有緒
未知の細道 No.88 |10 April 2017
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#11幾千の違う夜

 そんな大人たちの会話の横で、子どもたちは元気に走り回り、ママたちは麹の発酵をチェックし、お客さんたちはキョンちゃんの赤ちゃんを抱っこし、ギターの音はボロン、ボロンと響き続ける。

 それぞれが、それぞれの時間を過ごしている。

 ああ、楽しい。ゲストハウスって最高だ。

 スタッフのアサさんが、カウンターの向こうで嬉しそうに頷いた。

「そうなんです。ここに来る人のそれぞれの個性によって、毎日のように違う夜があるんです。みんなですごく盛り上がっている時もあれば、誰もが静かに本を読みながらお酒を飲んでいる時もある。それがすごくいい。毎朝、ああ、今日はどんな素敵なお客さんが来るのかなって楽しみで、ワクワクしながらここに来ます」

 毎朝ワクワクできるっていいなあ。でも、それは、お客さんにとっても同じだ。普通のホテルだったら、誰とも出会わずないままに一日を終える。しかし、ここでは、その日偶然に居合わせた人と出会い、旅の世界がブワッと広がる。

 すっかりほろ酔いになったので、皆さんに「おやすみなさい」と告げて、11時頃に布団に入った。すると、布団の中がいい感じにホカホカしている。宿の気遣いで、すでに湯たんぽが入っているようだ。

 ああ、あったかい、あったかい。なんて、あったかいんだろう。

 今日私は、いったい何人の地元の人と話をしたことだろうと思ったが、もはや数えられなかった。

 さあて、もう寝ないと。なにしろ、明日は朝5時半に温泉に行って、またあの地図を持って、ぶらぶらするんだ。

 明日はどんな1日になるんだろう?
  なにひとつ想像もつかないことが、たとえようもなく贅沢だった。

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未知の細道 No.88

川内 有緒

日本大学芸術学部卒、ジョージタウン大学にて修士号を取得。
コンサルティング会社やシンクタンクに勤務し、中南米社会の研究にいそしむ。その合間に南米やアジアの少数民族や辺境の地への旅の記録を、雑誌や機内誌に発表。2004年からフランス・パリの国際機関に5年半勤務したあと、フリーランスに。現在は東京を拠点に、おもしろいモノや人を探して旅を続ける。書籍、コラムやルポを書くかたわら、イベントの企画やアートスペース「山小屋」も運営。著書に、パリで働く日本人の人生を追ったノンフィクション、『パリでメシを食う。』『バウルを探して〜地球の片隅に伝わる秘密の歌〜』(幻冬舎)がある。「空をゆく巨人」で第16回開高健ノンフィクション賞受賞。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。