
静岡県静岡市
竹細工のなかでも独自の進化を遂げた静岡の伝統的工芸品「駿河竹千筋細工」。一本一本手作りした竹ひごで組まれた作品は、どれも優美な曲線を持つ。今、十数人しかいない駿河竹千筋細の職人のなかで、最年少は唯一の女性。18歳で弟子入りして腕を磨いてきた女性職人を訪ねた。
最寄りのICから新東名高速道路「静岡SA」を下車
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昨年6月26日、静岡で開催された「ユピテル・静岡新聞SBSレディースゴルフ」。優勝した仲宗根澄香選手は、見たこともないようなトロフィーを手にしていた。繊細で流れるようなフォルムが美しいそのトロフィーがいったい何で作られているのか、すぐにわかる人はいないだろう。製作したのは、神谷恵美さん。駿河竹千筋細工職人だ。
駿河竹千筋細工は「するがたけせんすじざいく」と読む。江戸時代の天保11年(1840年)より受け継がれる静岡の伝統工芸。そう、トロフィーは竹で作られたのだ。
日本全国に竹細工の産地はあるが、駿河竹千筋細工は独自の進化を遂げた。一般的には竹を平らに加工した「平ひご」を編むが、静岡では竹を丸く細く加工した「丸ひご」を使い、それを組む。さらに、竹を輪にする技法、輪の部分をつなぐ「継手」という技法はそれぞれ静岡でしか見られないものだ。
丸ひごに熱を加えてしならせることで、独特の曲線が生まれる。その上品なたたずまいは洋の東西を問わず人々の心を捉え、1873年(明治6年)、明治政府が初めて正式に参加したウィーンの万国博覧会に出品されると、工芸品として高い評価を得て輸出されるようになった。ちなみに今年4月、天皇、皇后両陛下とともに静岡市を訪れたスペイン国王夫妻にも、駿河竹千筋細工の作品が贈られている。
しかし職人の後継者不足は静岡も深刻で、駿河竹千筋細工の職人で作る静岡竹工芸協同組合の組合員は現在十数名とピーク時の六分の一程度。そのなかで、駿河竹千筋細工のトロフィーを作った神谷さんは唯一の女性であり、最年少の職人だ。
神谷さんは、18歳で弟子入りした静岡市伝統工芸技術秀士、篠宮康博さんの工房で今も大半の作業をしている。静岡駅から車で約20分。緑豊かな山の麓にある静岡市葵区の「篠宮竹細工所」を訪ねた。

川内イオ