さて数日後。私は小美玉市に車を走らせていた。自然が豊かで静かな地域を進んでいくと、不意に緑の中に大掛かりで立派なハウスが何棟もある場所が見えてきた。そこがやすだ園の主、保田幸雄さんの農園だった。ハウスを覗いてみると、そこにはきれいな緑色の植物が植えられた鉢が、びっしりと並んでいる。
そう、ここ「やすだ花香園」は、花き栽培(観賞用の鉢花の栽培)の園芸農家なのである。ガラス温室4,620㎡とパイプハウス2,310㎡という広大な敷地で、プール潅水と呼ばれる底面給水施設を完備し、近代的な農法でカーネーションやプリンセチア、ローズリーフといった花を、周年で約13万鉢も全国に出荷しているのだ。しかし今年から、保田さんは花の栽培の全てを息子さん夫婦に譲り、自身は7年前から取り組んでいるマンゴーの生産一本に力を注いでいるのだという。
ハウスの中で植木鉢に水をかけている、女性に声をかけてみた。保田さんの奥さん、しつ子さんだった。笑顔で出迎えてくれた保田さんとしつ子さんの、花の栽培から始まり、マンゴーの生産に至るまでの、長くて楽しいお話が始まった。

松本美枝子