
陸橋の上から聞く電車の音
早朝にいわきの町を出発し、さらに北上する。広野ICで降りて、国道6号線を北に進んで楢葉町へと入る。目指すは町の東側を通るJR常磐線の竜田駅だ。楢葉町は復興に向けて、まだまだ工事中の現場が多く、作業車両が町のいたるところを走り、電線や道路などの工事をしているようだった。
楢葉町は東日本大震災で、福島第一原子力発電所の事故の影響を大きく受けた町の一つであり、大部分が避難指示解除準備区域に指定されるのを余儀なくされた。2年前の2015年9月からは避難指示が解除されている。ほぼ時期を同じくして常磐自動車も2年から全線開通している。しかし高速道路と並び、もう一つの市民の足である鉄道は、いまだ不通の区間が残っている。帰還困難区域の手前にある竜田駅は、関東からの下りの電車の現在の終端であり、ここに入った電車は、また、いわき・水戸方面へと向かって折り返していくのだ。(取材した10月12日現在)。現在は1日9本ほど、この竜田駅での発着がある。
常磐線沿線に住む私は、最寄り駅でたまに「竜田行き」と書かれた電車を見るにつけ、これが竜田まで行く電車なのか、いつか竜田駅まで行ってみたいな……と常々思っていのだ。
竜田駅の手前にある、線路が見下ろせる小さな陸橋の上から、いわき方面からの電車が入ってくるのを待つことにした。
昼間は1〜2時間に1本しか電車がこないので、それを逃さぬように、私は電車が到着する時間をちゃんと調べてあった。だが予定よりだいぶ早い時間に、何の前触れもなく、下りの電車が入ってくるではないか。あれ、時刻表を見間違えたかな? と思って車体を見ると、赤く「試運転」と表示されてあった。
10月21日から、常磐線は竜田駅から、その一つ先の富岡駅まで延伸する予定なのだ。この電車は、まさにその試運転なのかもしれない。誰も乗っていないこの電車は、竜田駅でしばらく止まったのち、やがて折り返さずに、北に向かって静かに発車していった。
これはいいものを見られたなあ……! と思っていると、しばらくして、おそらく富岡駅まで行ってきたのであろう、先ほどの「試運転」の電車が、再び竜田駅に入り、そして次の木戸駅に向かって上っていったのであった。線路の近くには試運転の電車を見守るように作業しているらしき人たちの姿も見えた。
さて11時20分の少し前。静かな町の向こうから、踏切が鳴る音がかすかに聞こえてくる。陸橋から木戸駅の方を向かって眺めていると、今度は時刻表通り、ふだんの電車がゆっくりと竜田駅に向かって入ってきた。お客さんも何人か乗っているようだ。そうして10分後に、ガタンゴトンと力強い音を立てながら、今度は新しいお客さんを乗せて、また南へと向かって駅を出て行った。
人々の移動のために、線路や道路がある。それに乗って出かけていく人々たちがいて、その人たちの生活がある。私たちはふだん何の気なしに、電車や車に乗っているけれども、被災地には7年経っても、まだまだ生活の足が不便な場所がたくさんあるのだ、と改めて思い知らされた。その不通区間が少しずつ減っていくことを待っている人たちがいて、そしてそのために日々作業している人たちもいる。そんなことを考えながら、竜田駅を後にした。

松本美枝子