この日のCINEMA VOICEは、初めてここにやってきた、というお客さんが多かった。地元の女の子たちや、東京で鈴木さんの映画『丸』を知り、わざわざトークを聞きに来た若い男性など、さまざまだ。
そしてインタビュー中の鈴木さんと降矢さんの話に混じって、いつも見に来る常連客が、なぜか急にインド映画を熱く語り出し、だんだん話は映画から写真まで、アート全般の話となって盛り上がっていった。初めて来たというお客さんも傍らで、ずっとみんなの話に聞き入っている。
15時からの回だったのに、外はもうすっかり暗くなっている。
「みんなで飯でも行きますか」という鈴木さんの一声で、私たちは外に出た。目指すはすぐ近所の、中国人夫婦が朝5時までやっている美味しい中華屋だ。これから夜の街に出勤する人たちがご飯を食べたり、明け方仕事帰りのお姉さんたちの集団がラーメンをすすっていたり……、そんな店である。
そういえば鈴木さんは、こんなことを言っていた。
「最も優れた体験が、『映画を見ることだ』とは言わないけれど。でも映画を見ることは、やっぱり豊かな体験です。僕はシネコンでハリウッド大作を見るのも好きですし、CINEMA VOICEみたいな場所で映画を見ることも、同じく豊かな体験なんです。それは全て映画の力の上になり立っている」
そんな言葉を思い出しながら、こうやって小さな映画館で初めて出会った人たちと、映画の話をしながらご飯を食べに行くなんて、面白いなあ、と私は思った。

松本美枝子