未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
109

物語は、夜の街で輝く

映画監督がいる映画館 CINEMA VOICE

文= 松本美枝子
写真= 松本美枝子
未知の細道 No.109 |10 March 2018
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#9夜の街で映画は輝く

 この日のCINEMA VOICEは、初めてここにやってきた、というお客さんが多かった。地元の女の子たちや、東京で鈴木さんの映画『丸』を知り、わざわざトークを聞きに来た若い男性など、さまざまだ。
 そしてインタビュー中の鈴木さんと降矢さんの話に混じって、いつも見に来る常連客が、なぜか急にインド映画を熱く語り出し、だんだん話は映画から写真まで、アート全般の話となって盛り上がっていった。初めて来たというお客さんも傍らで、ずっとみんなの話に聞き入っている。

 15時からの回だったのに、外はもうすっかり暗くなっている。
「みんなで飯でも行きますか」という鈴木さんの一声で、私たちは外に出た。目指すはすぐ近所の、中国人夫婦が朝5時までやっている美味しい中華屋だ。これから夜の街に出勤する人たちがご飯を食べたり、明け方仕事帰りのお姉さんたちの集団がラーメンをすすっていたり……、そんな店である。

 そういえば鈴木さんは、こんなことを言っていた。
「最も優れた体験が、『映画を見ることだ』とは言わないけれど。でも映画を見ることは、やっぱり豊かな体験です。僕はシネコンでハリウッド大作を見るのも好きですし、CINEMA VOICEみたいな場所で映画を見ることも、同じく豊かな体験なんです。それは全て映画の力の上になり立っている」

 そんな言葉を思い出しながら、こうやって小さな映画館で初めて出会った人たちと、映画の話をしながらご飯を食べに行くなんて、面白いなあ、と私は思った。

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未知の細道 No.109

松本美枝子

1974年茨城県生まれ。生と死、日常をテーマに写真と文章による作品を発表。
主な受賞に第15回「写真ひとつぼ展」入選、第6回「新風舎・平間至写真賞大賞」受賞。
主な展覧会に、2006年「クリテリオム68 松本美枝子」(水戸芸術館)、2009年「手で創る 森英恵と若いアーティストたち」(表参道ハナヱ・モリビル)、2010年「ヨコハマフォトフェスティバル」(横浜赤レンガ倉庫)、2013年「影像2013」(世田谷美術館市民ギャラリー)、2014年中房総国際芸術祭「いちはら×アートミックス」(千葉県)、「原点を、永遠に。」(東京都写真美術館)など。
最新刊に鳥取藝住祭2014公式写真集『船と船の間を歩く』(鳥取県)、その他主な書籍に写真詩集『生きる』(共著・谷川俊太郎、ナナロク社)、写真集『生あたたかい言葉で』(新風舎)がある。
パブリックコレクション:清里フォトアートミュージアム
作家ウェブサイト:www.miekomatsumoto.com

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。