未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
109

物語は、夜の街で輝く

映画監督がいる映画館 CINEMA VOICE

文= 松本美枝子
写真= 松本美枝子
未知の細道 No.109 |10 March 2018
この記事をはじめから読む

#8映画をかける人たち

 続いて、グッチーズ・フリースクールの降矢さんと、鈴木さんのトークが始まった。この映画を配給したグッチーズ・フリースクールは、日本未公開映画の紹介、上映を企画・運営する団体だ。降矢さんは、映画の批評、脚本などを手がけながら、配給も行っている。実は鈴木さんはトーク前に、私にこんなことを言っていた。「僕が降矢さんの活動のファンで、ずっと呼びたかったんです」そんなことを思い出しながら、二人のトークを聞き始める。

 降矢さんたちグッチーズ・フリースクールでは、映画の配給権を買う際に、「純粋に好きなもので、上映後に見た人たちの気分が上がるような映画を選んでいる」という。そして降矢さんはこの『キングス・オブ・サマー』は、コミュニティで生きていくことを丁寧に描いているのも良かったから選んだ、ということを熱く語っていた。
 さらに二人はこの映画の見どころを丁寧に説明し、また出演している俳優たちのことや、その後の活躍なども詳しくトークしてくれた。
 中でも一番良かったエピソードは、ジョーダン・ヴォード=ロバーツ監督が、この映画を作ったすぐに後に『キング・コング:骸骨島の巨神』(2017年)の監督に抜擢された、という話だ。
 小さな映画を作った先に、大きな映画がつながっているなんて、なんだか夢のある話だ。CINEMA VOICEで見るには、ぴったりの映画じゃないか。

グッチーズ・フリースクールの降矢聡さん。

 トークが終わった後、降矢さんと鈴木さんに話を聞いてみた。
 鈴木監督の『丸』のことはもちろん知っていた、という降矢さん。
「でもまさか僕たちの活動を見ていて、しかもこういう映画館をやっていて、そこに呼んでくれるなんて思ってもいなかった」という。「それにこの環境の映画館は、世界を探しても、ちょっとないでしょうね」と、CINEMA VOICEそのものにも驚いていた様子だった。
 鈴木さんもこう言う。「映画の配給は博打みたいな部分もあるから、こうやって個人配給のアクションを起こしている降矢さんたちの活動に感心していました。会ったことはなかったけれど、同じように映画を作って、見せましょう! という身からしては、リスペクトできる存在でした」

 二人は「またグッチーズの配給の映画を、CINEMA VOICEでかけましょう!」と言って、しばらく話し込んでいた。

このエントリーをはてなブックマークに追加


未知の細道 No.109

松本美枝子

1974年茨城県生まれ。生と死、日常をテーマに写真と文章による作品を発表。
主な受賞に第15回「写真ひとつぼ展」入選、第6回「新風舎・平間至写真賞大賞」受賞。
主な展覧会に、2006年「クリテリオム68 松本美枝子」(水戸芸術館)、2009年「手で創る 森英恵と若いアーティストたち」(表参道ハナヱ・モリビル)、2010年「ヨコハマフォトフェスティバル」(横浜赤レンガ倉庫)、2013年「影像2013」(世田谷美術館市民ギャラリー)、2014年中房総国際芸術祭「いちはら×アートミックス」(千葉県)、「原点を、永遠に。」(東京都写真美術館)など。
最新刊に鳥取藝住祭2014公式写真集『船と船の間を歩く』(鳥取県)、その他主な書籍に写真詩集『生きる』(共著・谷川俊太郎、ナナロク社)、写真集『生あたたかい言葉で』(新風舎)がある。
パブリックコレクション:清里フォトアートミュージアム
作家ウェブサイト:www.miekomatsumoto.com

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。