未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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子どもの楽園!清流のオアシス!

夏がきた!うしづま水辺の楽校

文= 川内イオ
写真= 川内イオ
未知の細道 No.118 |25 JULY 2018
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#5魚のつかみ取りの舞台裏

誇らしそうに魚を入れた虫かごを見せてくれた

 草刈りや施設、用具の修理などにかかる費用は開校日などにお祭りを開いて、出店の売り上げでまかなっているという。ここまでお話を聞いただけでも、その自主独立の精神に万歳三唱を贈りたい気持ちになった。でも、まだサプライズがあった。

先述したように、うしづま水辺の楽校の会場では子どもたちが大騒ぎしながら川魚や沢がになど水辺の生物を採っている。たくさん採れた子どもに「見せて」と言うと、誇らしそうに魚を入れた虫かごを見せてくれた。

 それだけの生物が生息している環境自体が素晴らしいんだけど、なんといっても子どもにとってのメインイベントは魚のつかみ取り。世話人会が開校日とお盆と最終日の計3回、子どもたちのために数百匹のアマゴ(マスの一種)を放すのだ。開校日に放すというアマゴを見せてもらうと、どれも10センチは優に超えていて、なかには30センチを超えるものもいる。

 「この魚、どうしてるんですか?」という僕の質問に対する荻野さんの答えに、思わず「えーーーっ!」とのけぞった。

 「養殖してるんだよ。10万匹」

 「え、水辺の楽校のために?」

 「そう。阿部川フォーラムの時代から。何割かは漁業組合に卸してエサ代にしてるけどね。世話人会のメンバーみんなで世話してるんだ。エサをあげたり、掃除をしたり。それで水辺の楽校が始まると、2年ぐらい育てて大きくなった魚を連れてくるんだよ」

 なんということでしょう! 全国約280カ所の水辺の楽校のなかでも、子どもたちのために10万匹の魚を自分たちで養殖しているところはほかにないと思われます。

開校日に放すアマゴは食べることもできる。つかみ取った魚は持ち帰りOK!
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未知の細道 No.118

川内イオ

1979年生まれ、千葉県出身。広告代理店勤務を経て2003年よりフリーライターに。
スポーツノンフィクション誌の企画で2006年1月より5ヵ月間、豪州、中南米、欧州の9カ国を周り、世界のサッカーシーンをレポート。
ドイツW杯取材を経て、2006年9月にバルセロナに移住した。移住後はスペインサッカーを中心に取材し各種媒体に寄稿。
2010年夏に完全帰国し、デジタルサッカー誌編集部、ビジネス誌編集部を経て、現在フリーランスのエディター&ライターとして、スポーツ、旅、ビジネスの分野で幅広く活動中。
著書に『サッカー馬鹿、海を渡る~リーガエスパニョーラで働く日本人』(水曜社)。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
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きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。