未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
127

「アーカスプロジェクト」は世界と守谷をつないでいる

文= 松本美枝子
写真= 松本美枝子
未知の細道 No.127 |10 December 2018
この記事をはじめから読む

#2守谷のキッズ、アーティストたちに出会う

 定刻の少し前、中学生の一団も先生と一緒にやってきた。近所の御所ケ丘中学美術部の生徒たちだ。小学生はコーディネーターの藤本さんに、中学生は同じくコーディネーターの外山さんに連れられて、3人のアーティストのオープンスタジオを順番に巡ることになった。

 まずエリカのスタジオ《F1(雑種第1代)》に入った小学生たち。日本の遺伝子組換えシルクに興味を持ったというエリカ。そのリサーチを体験してもらうためのインスタレーションをスタジオに作ったという。

子供達に桑の葉のお茶を勧めるエリカ・セルジ

 中に入ると、蚕と人間の歴史や現在にまつわるさまざまなオブジェクトが置かれている。子供たちは「ここにある作品は全て触っていいですよ」といわれて、興味津々な様子だ。繭をゆすったり、絹糸を触ったり、エリカに勧められて蚕が食べる桑の葉から作られたお茶を飲んでみたり……と、実際に自分で触れて確かめては、びっくりしたり、笑ったり、あるいは熱心にメモ用紙に何かを書き込んだりしていた。やはりアーティストが作ったものに直接触れると、いろいろな想像が湧いてくるようだ。美術館ではできない体験ができるのが、このオープンスタジオの良さのひとつでもある。

ジハド・ジャネルのスタジオ

 次は隣のジハドのスタジオ《飼い慣らせないモンスターをde-monsterする実演(飼い慣らすデモ)》へと移動する。光に敏感な蚕のために、柔らかな日差しが入るように工夫されたエリカのスタジオとは打って変わって、緑色の光が満ちたなんだか奇妙な空間だ。中にはモニターが向かい合って2台あり、片方では恐ろしげな姿をした人間とも怪物ともつかない生き物が、何やら悲しげな歌をうたっている。もう片方のモニターにも、異形の生き物が荒い息遣いで座っている。

 子供たちは恐る恐る、と言った感じで、遠巻きにモニターに流れる映像を眺めはじめる。トルコ出身で、フォト・ジャーナリストとして活動した後にアーティストになったジハドは、戦争、移民、抵抗といった問題を扱ってきた。この作品もトルコの「モンスター」や日本の「妖怪」のイメージを通して、近年、世界を席巻しつつある排他的な考え方が、社会に抑圧を生み出し、排除される存在を作り出しているのではないか? ということを、見る人とともに考えようとする物語なのだ。
 ジハドは藤本さんを通して「モンスターはどんな生き物かな? モンスターはどこからやってくるのかな?」と子どもたちに静かに語りかけていた。

熱心にスタジオの感想を書き込む小学生。
このエントリーをはてなブックマークに追加


未知の細道 No.127

松本美枝子

1974年茨城県生まれ。生と死、日常をテーマに写真と文章による作品を発表。
主な受賞に第15回「写真ひとつぼ展」入選、第6回「新風舎・平間至写真賞大賞」受賞。
主な展覧会に、2006年「クリテリオム68 松本美枝子」(水戸芸術館)、2009年「手で創る 森英恵と若いアーティストたち」(表参道ハナヱ・モリビル)、2010年「ヨコハマフォトフェスティバル」(横浜赤レンガ倉庫)、2013年「影像2013」(世田谷美術館市民ギャラリー)、2014年中房総国際芸術祭「いちはら×アートミックス」(千葉県)、「原点を、永遠に。」(東京都写真美術館)など。
最新刊に鳥取藝住祭2014公式写真集『船と船の間を歩く』(鳥取県)、その他主な書籍に写真詩集『生きる』(共著・谷川俊太郎、ナナロク社)、写真集『生あたたかい言葉で』(新風舎)がある。
パブリックコレクション:清里フォトアートミュージアム
作家ウェブサイト:www.miekomatsumoto.com

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。