定刻の少し前、中学生の一団も先生と一緒にやってきた。近所の御所ケ丘中学美術部の生徒たちだ。小学生はコーディネーターの藤本さんに、中学生は同じくコーディネーターの外山さんに連れられて、3人のアーティストのオープンスタジオを順番に巡ることになった。
まずエリカのスタジオ《F1(雑種第1代)》に入った小学生たち。日本の遺伝子組換えシルクに興味を持ったというエリカ。そのリサーチを体験してもらうためのインスタレーションをスタジオに作ったという。
中に入ると、蚕と人間の歴史や現在にまつわるさまざまなオブジェクトが置かれている。子供たちは「ここにある作品は全て触っていいですよ」といわれて、興味津々な様子だ。繭をゆすったり、絹糸を触ったり、エリカに勧められて蚕が食べる桑の葉から作られたお茶を飲んでみたり……と、実際に自分で触れて確かめては、びっくりしたり、笑ったり、あるいは熱心にメモ用紙に何かを書き込んだりしていた。やはりアーティストが作ったものに直接触れると、いろいろな想像が湧いてくるようだ。美術館ではできない体験ができるのが、このオープンスタジオの良さのひとつでもある。
次は隣のジハドのスタジオ《飼い慣らせないモンスターをde-monsterする実演(飼い慣らすデモ)》へと移動する。光に敏感な蚕のために、柔らかな日差しが入るように工夫されたエリカのスタジオとは打って変わって、緑色の光が満ちたなんだか奇妙な空間だ。中にはモニターが向かい合って2台あり、片方では恐ろしげな姿をした人間とも怪物ともつかない生き物が、何やら悲しげな歌をうたっている。もう片方のモニターにも、異形の生き物が荒い息遣いで座っている。
子供たちは恐る恐る、と言った感じで、遠巻きにモニターに流れる映像を眺めはじめる。トルコ出身で、フォト・ジャーナリストとして活動した後にアーティストになったジハドは、戦争、移民、抵抗といった問題を扱ってきた。この作品もトルコの「モンスター」や日本の「妖怪」のイメージを通して、近年、世界を席巻しつつある排他的な考え方が、社会に抑圧を生み出し、排除される存在を作り出しているのではないか? ということを、見る人とともに考えようとする物語なのだ。
ジハドは藤本さんを通して「モンスターはどんな生き物かな? モンスターはどこからやってくるのかな?」と子どもたちに静かに語りかけていた。

松本美枝子