塾生を育てて大会に出場するだけでなく、大河さんは行方市でも金魚すくいの大会を開催するようになった。その名も『全日本KIN-1グランプリ』。
「全国大会では10位以内に入ると、その後5年間はシードで全国大会に出られるルールがある。これは一から勝ち抜かなくても優勝に近づける一方で、強い選手は金魚すくいをする回数が減る、ということなんだよね。うちの塾生たちも上手になって、だんだんと予選に出られなくなってきた。そうすると、せっかく腕があるのに披露するところがなくなっちゃう」
練習してきた金魚すくいを楽しむ場を、少しでも増やしたい。その思いで5年前にKIN-1グランプリを始め、全国にある金魚すくいが盛んな地域に会場を移しながら、 多くの金魚すくいファンを巻き込んできた。
「年齢制限はないんです。ちいちゃい子どもから、じいちゃん、ばあちゃんまで、みんなが一緒に楽しめるのが金魚すくい。去年のチャンピオンは中学3年生でしたよ」
昨年は300人が参加した大会で、決勝を制したチャンピオンがすくいあげた数は、90匹! 3分間での記録なので、2秒に1匹の速さですくい続けたということだ。


他の競技大会と同じように、KIN-1グランプリでもトーナメントを勝ち進まなければならない。現在は東日本大会、西日本大会、茨城県大会、北海道大会の4ヶ所で予選大会が行われ、午前と午後の2回の合計で10匹以上すくった人が準々決勝へ進出できる。2回に分けて10匹すくえばいいのであれば、なんとかできそうな気がするが、ここからが厳しい。
準々決勝に進んだなかから上位16名が準決勝へ進み、各予選大会で1位通過したシードと合わせて20人が準決勝でぶつかる。そのなかで、決勝に進むのはたったの4人。今年の開催場所は行方市なので、11月の「行方ふれあいまつり」のステージ上で最後の戦いは行われる。優勝者に与えられるのは「令和初代チャンピオン」の称号と賞金5万円だ。
そんなに金魚すくいに情熱を持って取り組んでいる人たちがいたなんて……。大河さんの話を聞いた私が持った最初の感想はこうだった。私自身は、金魚すくいの経験がほとんどない。お祭りで見かけても「薄く張った紙で魚をすくうなんて、どうせ無理だろう」と諦めてきたのだ。だから彼らと同じように、自分も金魚すくいに夢中になれる気がしなかった。
「大丈夫。小さい子でもすくえるようになって、楽しくなっちゃうんだから」
大河さんの確信に満ちた声に励まされ、私はポイを受け取った。