現在、「森の演出家」としての活動の拠点となっているのは、御岳駅から近い古民家である。築年数は、150年。中には自作の囲炉裏があり、ここは、自然と共に暮らす人のための循環型の家だ。玄関脇には鶏小屋で鶏が卵を産み、裏庭には自然農法で作った野菜やハーブが元気に育っている。中に入れば自作の囲炉裏があり、釣ってきた魚を焼いて食べられる。
「もともと古民家に住むのが夢でした。それで、たまたまこの家を見つけて、ここだって。理由は駅ちかだってこと。お客さんがたくさん来るかなって!」
借りた当時の家はとても住める状態ではなかったが、全てDIYで修繕。古民家に住む上で修繕は最大の鍵となる。なにもかも自分でできない限り、古民家には住む資格はない。
移住当初、近隣の人はどこかよそよそしかった。もっと地元コミュニティに馴染む方法がないかと悩んでいたある日、「とてもラッキーなことがあった」。それは、自作の鶏小屋に閉じ込められる、という小さな事件だ。
「鶏が卵をうむ時、気性が荒くなるんです。バタバタ暴れて逃げようとするから、扉を閉めたら鍵がカシャンとかかってしまった。携帯電話で近所の人に助けを求めたら、そのことが回覧板よりすごい勢いで近隣に広がって、『鶏小屋に閉じ込められた、お面白い兄ちゃん』と認識されるようになりました。鶏小屋に閉じ込められてよかったなあ、って思いました!」
それから、地元の人に野菜や卵を届けたり、飲み会を開いたりして、徐々にコミュニティに受け入れてもらえるようになった。今や近隣のおばあちゃんたちがアポなしでお茶を飲みにくるほど親しくなった。なにはなくても人とのつながりさえあれば、人は困難を乗り越えられる。それは、銀行にお金がいっぱいあるよりも確かな安心かもしれない。



川内 有緒