しかし、古民家さえあれば自動的にお客さんが大挙してやって来るわけではなかった。時代は2010年代だというのに、彼は「机に座っているだけで気持ちが悪くなってしまう」という人。ホームページやブログはおろか、パソコンを触ったこともなかった。「もっとネットで発信したほうがいい」というアドバイスを受けても、「嫌です!」とすぐに言い返した。しかし、しばらくすると考えが変わった。
「仕事に繋がるんだったら、なんでもトライしてみようと思いました。なにも知らないから、まずは学校にいきました。いま簡単そうに言ったんですが、本当に、本当に大変だったんですよ。『デスクトップ』ってどこの机ですか、とかトンチンカンな質問をしてました」
そして、人差し指でキーボードをポチポチ押して、ブログやホームページを開設。徐々に情報は拡散し、お客さんがやって来るようになった。家族連れ、女の子同士、会社員と色々だが、ひとつ共通していることがある。それは、誰もが都会生活でちょっと疲れていることだ。
「表情が全然ない人も来ます。ガイドしても反応がまったく見えないので、楽しんでもらってるのか不安なんです。でも、アンケートを見てみると、すごく良かったって書いてくれて、またリピーターとして来てくれたり。そういう人でも、森を歩いているうちに、本来その人が持っている表情が出てくる。そして、最後にすごく素敵な笑顔や、生きた笑顔が見える時が嬉しい」
古民家というベース基地があることで、多様なリクエストに答えられるようになった。
森を一緒に歩くガイドツアー、屋外クッキング教室、釣りピクニック、そして山菜ツアー。ツアーの最後は、魚や山菜を古民家に持って帰り、土屋さんが作った野菜とともにご馳走となって振舞われる。その他にも、苔玉教室、森の中のヨガ教室。骨盤矯正にもなるノルディック教室(お年寄りにも人気!)。「こたつぬくぬく」というイベントは、「寒い時には田舎のこたつで温まりたい」という声に応えたもの。森の中で結婚式をあげるアウトドア・ウェディングでパエリアを作ることもある。古民家をオフィスとして使ってください、という「出先オフィス」の案内を出した時は、あまりの人気に電話がパンク状態に。そのふたつとないイベントは、リピーターになる人も多い。アイディアは、次々に湧いてくる。
「僕がやっているのは、『観光』地を作ることではなく、人同士、そして人間と自然とのつながりを作る『関係』地を作ることなんです」

川内 有緒