
というわけで、僕は11月22日、南部町の方々と鍋をつつき、フーフーする、それだけのために南部町に向かった。
新幹線で八戸まで向かい、そこから軽自動車をレンタカーして20分。15時頃に南部町に入ると、まずは情報収集のためにあらかじめ場所を調べておいたケクー・カフェに向かう。お店は東京の表参道にでもありそうなオシャレで落ち着いた雰囲気で、一歩足を踏み入れた瞬間にカフェ好きのスイッチが入ってしまった。ついついケーキとコーヒーを注文。持参した小説を読み始め、気づけば1時間が経過していた。
後から考えればこの1時間が致命的だったのだけど、そんなことは知る由もない。
そろそろ始めるか、と八戸駅で購入したノートと筆ペンを取り出し、
「東京からきました!!
22日は南部町のナベの日。
よかったらまぜて下さい!」
と記す。なぜ筆ペンか? その方が温もりがあり、人間味が伝わると思ったから……というのは嘘で、八戸駅の本屋で太いマジックを調達しようとしたら細字タイプしかなく、でっかく、目立つように書こうと思ったら筆ペンを買うしかなかったのだ。
さあ、捜査開始! カフェのオーナー夫人をつかまえて、「22日は南部町の鍋の日だと思うんですけど、ご存知ですか?」と尋ねた。すると、一瞬遠い目をした後、「……ああ、はい。知ってます。でも、うちはお店があるので意識したことはありません」と答えてくれた。その遠い目を見て、記者歴13年の直感が一瞬「むむ!?」と反応した気もするけど、南部町の主婦が鍋の具材を買う可能性のある場所として、近隣の3つの直売所の名前を仕入れた僕は、初動捜査に満足していた。
調子に乗って、夫人にノートを広げて見せて、「これ、いけますかね?」と聞いたら、夫人はまた遠い目をした後、薄く微笑みながらこう言った。
「キャラクターで頑張ってください」。
いま思えば、この言葉は意味深だった。



川内イオ