未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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おれを鍋にまぜてくれないかい?

“鍋の日”に起きた南部町の奇跡

文= 川内イオ
写真= 川内イオ
未知の細道 No.57 |20 December 2015 この記事をはじめから読む

#4サブリミナル効果はゼロ

町営の宿泊施設アヴァンセふくち内では「なべの日」を全力アピール!

 最初に向かった直売所は、ふくちジャックドセンター。ここは、この日僕が宿泊する町営の宿泊施設アヴァンセふくちに併設されているから、チェックインしてすぐに向かった。宿には「22日は鍋の日!」とあちこちに書かれていたこともあり、この時は、今夜、鍋をする人もすぐに見つかるかも! と楽観的な気持ちになっていた。
 施設では、近隣の農家のおかあさんがふたり働いていた。「今日、22日は鍋の日って知ってますか?」と質問をすると、「ここでは22日になると『今日は鍋の日です』と放送がかかるから、みんな知ってますよ!」と期待通りの答えが返ってくる。
 さすが町営施設! 3年間も毎月放送で念を押されていれば、サブリミナル効果で、自然と「22日といえばナベ」となりそうだ!
 で、おかあさんたち、今夜は鍋ですか?
「うちは違うねえ」
「うちは昨日、鍋だった」
 ……ホ、ホ、ホワイ、イエスタデー!? サブリミナル効果、ゼロ!
 いやいや、まだ捜査は始まったばかり。おかあさんふたりに捜査の目的を話すと「あっら~、そのために東京から?」と笑われた。

 ここからが、おかあさんたちの本領発揮。
 なんと、店内で買い物をしているお客さん数人に「○○さん、今夜、鍋じゃない?」と声をかけてくれたのである。東京じゃあり得ない光景に、僕は思わず、最近あまり聞かなくなったフレーズの一部を変えて「南部町のおっかさんた~ちは、あったかいんだから~♪」と歌いだしたくなった。
 しかし! である。その時お店にいた全員が、夕食は鍋じゃないと回答。にわかに雲行きが怪しくなってきた。
 僕のひきつった笑顔に気づいたのか、店員のおかあさんふたりに「ちゃんと22日に食べてる人もいると思うよ!」と励まされ、「チェリーセンターに行くといいですよ!」とアドバイスをもらう。
「チェリーセンターはここよりも大きくて、留学生をお世話しているような人がよく買い物に行くところなの。だから、今夜の夕食が鍋の人もいると思います!」
 これはこれは、グッドな情報をサンキューチェリーマッチ! 僕はお礼を言って、ふくちジャックドセンターから車で15分ほどの距離にあるチェリーセンターに向かった。


アヴァンセふくち内の食堂でも、メニューに「なべ」が!
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未知の細道 No.57

川内イオ

1979年生まれ、千葉県出身。広告代理店勤務を経て2003年よりフリーライターに。
スポーツノンフィクション誌の企画で2006年1月より5ヵ月間、豪州、中南米、欧州の9カ国を周り、世界のサッカーシーンをレポート。
ドイツW杯取材を経て、2006年9月にバルセロナに移住した。移住後はスペインサッカーを中心に取材し各種媒体に寄稿。
2010年夏に完全帰国し、デジタルサッカー誌編集部、ビジネス誌編集部を経て、現在フリーランスのエディター&ライターとして、スポーツ、旅、ビジネスの分野で幅広く活動中。
著書に『サッカー馬鹿、海を渡る~リーガエスパニョーラで働く日本人』(水曜社)。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。