未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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おれを鍋にまぜてくれないかい?

“鍋の日”に起きた南部町の奇跡

文= 川内イオ
写真= 川内イオ
未知の細道 No.57 |20 December 2015 この記事をはじめから読む

#6南部町で広がる伝言ゲーム

 しかし、これで奇跡は終わらない。
 庭田さんから、今夜鍋をするというNさんに直接連絡してみて、と言われて電話をかけたところ、非常に紳士的な雰囲気のNさんは「仕事の都合で、何時から食べ始めるかわからない。あまり遅くなると申し訳ないから、自分が探します。ちょっと待っててください」という。
 やっと見つかったと思ったのに……という少し残念な気持ちもあったけど、見ず知らずの男の「鍋に混ぜてほしい」というわけのわからない願いを聞いて、「自分が探します」と言ってくれるNさんの温かい気持ちを感じて、僕はスマホに向かってまた「宜しくお願いします!」と頭を下げていた。
 庭田さんをはじめ、お店の方々も「いったいどうなるんだ!」と緊張気味にNさんからの連絡を待つ。

 数分後、Nさんから電話がかかってきた。「やっぱり見つかりません」ということも十分にあり得るので、気を静めて電話に出たんだけど、「見つかりました!」という第一声を聞いて、僕は「え、ほんとですか!!!」とまた大きな声をあげてしまった。話を聞くと、Nさんがラインとフェイスブックで呼びかけてくれたらしい。なんでそこまでしてくれるのか……僕は、声しか知らないNさんに何度も何度もお礼を言って、電話を切った。
 Nさんが紹介してくれたのは、木村敦子さん。電話をしてみると、その声から明るい雰囲気が伝わってくる方で「どうぞ、お待ちしてます!」と言ってくれた。 
 奇しくも、住所はチェリーセンターの方面。僕は名前以上にほのぼのとしたほのぼの館の皆さんに厚くお礼を伝えると、ケクー・カフェに立ち寄ってお土産用にケーキを買い、また先ほど通った道に車を走らせた。

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未知の細道 No.57

川内イオ

1979年生まれ、千葉県出身。広告代理店勤務を経て2003年よりフリーライターに。
スポーツノンフィクション誌の企画で2006年1月より5ヵ月間、豪州、中南米、欧州の9カ国を周り、世界のサッカーシーンをレポート。
ドイツW杯取材を経て、2006年9月にバルセロナに移住した。移住後はスペインサッカーを中心に取材し各種媒体に寄稿。
2010年夏に完全帰国し、デジタルサッカー誌編集部、ビジネス誌編集部を経て、現在フリーランスのエディター&ライターとして、スポーツ、旅、ビジネスの分野で幅広く活動中。
著書に『サッカー馬鹿、海を渡る~リーガエスパニョーラで働く日本人』(水曜社)。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。