ところが、冒頭でお伝えした通り、17時頃に到着すると、すでに肝心のお客さんがいなかった。レジのおじさんに「ここらへんの人は、夕飯の買い物はもっと早い時間帯にするんだ。今日は、鍋の具材を揃えて店頭で売ってたんだけど、もう片付けちゃったよ」と言われて、当初の楽観ムードは危機モードに。
もう、買い物が終わっている時間ということは、直売所で出会った人の鍋に加わらせてもらうというミッションは、インポッシブル!?
僕は最後の可能性にかけて、3つめの直売所、ほのぼの館に向かった。
ほのぼの館は来た道を戻る位置にあり、また15分かかって到着したのは17時30分。外はすっかり暗くなっていて、焦りが募る。もう、なりふり構っていられない。
僕は、ノートを広げて「どうも~!」と店の扉を開いた。
店内には、レジに若い女の子とおかあさん、店の奥にあるストーブにあたっているおとうさん、お客さんも2人いた。
招かれざるハイテンションの珍客に、女の子とおとうさん、お客さんは明らかに戸惑っている様子だったけど、さすがおかあさん、冷静な突っ込みを入れてくる。
「テレビかい?」
腹をくくった僕は、ふくちジャックドセンター、チェリーセンターを経てほのぼの館まで流れてきた経緯を説明した。
ここから、南部町の奇跡が始まる。
僕が南部町に来た理由を知ると、ジャックドセンターのおかあさんたちと同じく、店のなかの全員が「なにそれ!」と笑ってくれた。そして、その場にいる人たちの誰も夕飯は鍋ではないとわかって、あからさまに落胆する僕を見て、恐らく、「こいつはアホだ」と呆れつつも同情してくれたのだろう。
レジにいた女の子が「知り合いに聞いてみましょうか?」と言ってくれた。いかにも友達が多そうな、朗らかな雰囲気の女の子の名前は、庭田春奈さん。「お願いします!」と頭を下げると、庭田さんの怒涛の電話攻勢が始まった。
「○○さん、どうも、こんばんは! 詳しい事情は後で話すけど、今夜の夕食って鍋じゃない? そうっかー、違うか、わかった。ごめん! またね!」
当たりがないとわかると、ひとり、ふたり、三人と、どんどん電話をかけてくれる。相手が電話に出ないと、留守電にまで入れてくれる。電話に出た人も、留守電を聞いた人も、何事!? と思うだろうけど、そういうやり取りが許される間柄なのだろう。
心底驚いたのは、庭田さんからの電話を受けて、ほとんど詳しい説明も聞かずに「鍋してそうな人がいるから、聞いてみる」と言ってくれる人がいたこと! そしてなんと、ほのぼの館で待つこと20分、間もなく閉店時間の18時というときに、この謎の伝言ゲームで庭田さんの友人、リンゴ農家のUさんから「見つかった!」と連絡が来たのである。
僕は「マジっすか!!!」とつい大きな声をあげてしまった。
南部町のネットワーク、ハンパねえ!!



川内イオ