私たちは、木立の中をしばらく歩き続けた。大きな木々がそよ風に揺られ、やわらかな光が揺れている。あたりに響くのはウグイスの鳴き声ばかりだ。
森の中では、土中からふきのとうが芽を出し、木々には可憐な蕾が顔をのぞかせている。すぐそこに、春は来ているらしい。
起伏に富んだ森の土地なので、歩いているだけで景色が変わっていく。私たちは、ただ日差しのなかを歩くことを楽しんでいた。
しばらく行くと、馬のトレーニングや乗馬を行う丸馬場が見えた。もともとは、ここも雨が降るとズブズブと膝まで土中に潜るような厄介な場所だったそうだ。
「実は、ここの地下には“暗渠”が通っているんです」
と菅野さんは説明する。暗渠とは、地下に埋没した水路のこと。人工的に水の流れを作ってあげることで、雨水をスムーズに排水する土木工事だ。これも溝を堀り、貝殻を並べるなどして試行錯誤で作った。ひと通り作っては失敗して、また最初からやり直すことも。とにかく何から何まで手探りだった。
「でも、ひとりでじっくり向き合えるのは幸運でしたね。誰かに『次はこう』と道順を教わっていたら、そんなに面白くなかったかもしれない。無駄が宝です」
こんな風にどこまでもポジティブな考えの菅野さんだが、子供の頃は「暗い子でしたね。ネガティブで。漫画読んでゲームやって」というので驚いた。
そんな性格を変えるきっかけとなったのが、美容整形だったそうだ。二十代の頃の菅野さんはぽっちゃりしたお腹がコンプレックスだった。自然に猫背になり、人とも目を合わせたくないほどに暗かった。しかし、思い切って脂肪吸引の施術を受けると、ウェストが5センチ細くなった。
「あ、私、お腹を見せてもいいんだと思ったら世界が変わった。自分は自分で変えることができるのだと気付いて気持ちが楽になった。たった5センチで世界は変わるんです」

川内 有緒