天井が高い木造の建物は、なんともいい香りに包まれていた。あたりには木の箱のようなものが積み重なり、中には白い綿菓子のようなものが詰まっている。もしかして、これが…… 。
太陽のように明るい年配の女性が出てきて、「これは、糀ですよ!」とハキハキと説明した。ここのご主人である仁さんの奥さんの資子(もとこ)さんだ。
糀屋というのは、手作り味噌の材料、および味噌の仕込み屋さんのことである。農家などから持ち込まれた大豆や米をここの釜で炊き、発酵させた麹と塩と混ぜ、要望に合わせて味噌を仕込む。お客さんはそれを自宅でしばし熟成させて完成、という仕組みだ。もちろん糀だけとか、完成された味噌だけを買うこともできる。創業は明治27年、120年以上の歴史を持つ堂々たる老舗。さすが、発酵の里じゃないか。
その時、さらに明るくて元気な声が響いた。現在四代目となるご主人、鈴木仁さんである。
「おいおい、取材か〜? ひとりで来たんか? まずは、なんか飲め〜!リボビタンDにすっか? そら、元気出せ! わははは!」
そんな陽気な大歓迎を受けて、私はすっかり嬉しくなった。冷えたリポビタンDを飲みながら、私が珍しそうに真っ白な糀を見つめていると、「ほら、食べてみ!」と仁さんにかけらを手渡された。口に入れてみると、それはほんのりと甘く、上品なお菓子のようなでおいしかった。

川内 有緒