未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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人も町も発酵する小さな王国・神崎

歌って、踊って、ぐるぐる回って、さあ発酵!

文= 川内有緒
写真= 川内有緒
未知の細道 No.64 |10 April 2016
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#3糀(こうじ)を売る店

 天井が高い木造の建物は、なんともいい香りに包まれていた。あたりには木の箱のようなものが積み重なり、中には白い綿菓子のようなものが詰まっている。もしかして、これが…… 。
 太陽のように明るい年配の女性が出てきて、「これは、糀ですよ!」とハキハキと説明した。ここのご主人である仁さんの奥さんの資子(もとこ)さんだ。
 糀屋というのは、手作り味噌の材料、および味噌の仕込み屋さんのことである。農家などから持ち込まれた大豆や米をここの釜で炊き、発酵させた麹と塩と混ぜ、要望に合わせて味噌を仕込む。お客さんはそれを自宅でしばし熟成させて完成、という仕組みだ。もちろん糀だけとか、完成された味噌だけを買うこともできる。創業は明治27年、120年以上の歴史を持つ堂々たる老舗。さすが、発酵の里じゃないか。

 その時、さらに明るくて元気な声が響いた。現在四代目となるご主人、鈴木仁さんである。
「おいおい、取材か〜? ひとりで来たんか? まずは、なんか飲め〜!リボビタンDにすっか? そら、元気出せ! わははは!」
 そんな陽気な大歓迎を受けて、私はすっかり嬉しくなった。冷えたリポビタンDを飲みながら、私が珍しそうに真っ白な糀を見つめていると、「ほら、食べてみ!」と仁さんにかけらを手渡された。口に入れてみると、それはほんのりと甘く、上品なお菓子のようなでおいしかった。

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未知の細道 No.64

川内 有緒

日本大学芸術学部卒、ジョージタウン大学にて修士号を取得。
コンサルティング会社やシンクタンクに勤務し、中南米社会の研究にいそしむ。その合間に南米やアジアの少数民族や辺境の地への旅の記録を、雑誌や機内誌に発表。2004年からフランス・パリの国際機関に5年半勤務したあと、フリーランスに。現在は東京を拠点に、おもしろいモノや人を探して旅を続ける。書籍、コラムやルポを書くかたわら、イベントの企画やアートスペース「山小屋」も運営。著書に、パリで働く日本人の人生を追ったノンフィクション、『パリでメシを食う。』『バウルを探して〜地球の片隅に伝わる秘密の歌〜』(幻冬舎)がある。「空をゆく巨人」で第16回開高健ノンフィクション賞受賞。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。