優さんは、普段は見えない微生物だが、ちゃんと人間の想いが届いているという。
「居心地の良い環境を造れば自然に菌がやってきて、酒を造ってくれる。温度、湿度もそうなんですが、古い建物を大事に使っていくこと。そういうところに菌が棲みつくと言われます。それと一番大事なのは、造っている人の気持ち。楽しく造っていれば楽しい酒になる。気持ちよく仲良く自分たちが働くことが、菌を元気にさせる」
そう考える優さんの出現は、この酒蔵に重要な変化をもたらした。まず機械による作業をやめ、すべて昔ながらの酒造りのプロセスに戻したことだ。
「機械でやると、楽だし早いんですけど、一番大事なのは造っている人の愛情や想いなんですよね。だから、効率的じゃないところに、菌と気持ちが響きあうっていうのもあるのかなと」
もう一つの変化が、みんなで唄いながら醸造をすること。やはり自分たちが酒造りを楽しむことで、微生物たちに想いを届けたいと考えた。
「もともと(日本には)『酒造り唄』というものがたくさんあったんですね。最初の頃は恥ずかしいから人前で唄うことに慣れてなかったんですが、ちょうど佐渡出身のものすごい唄がうまい蔵人がいたので、少しずつ。今はだいぶ慣れて楽しくなってきましたよ」
あの大人気イベントの「お蔵フェスタ」を始めたのも、優さんだ。先代の啓佐さんも「やったらいいよ!」と歓迎し、第一回目の時は、自ら「うふふで発酵」という唄を作って披露した。うーん、自由だ!
それにしても、外からやってきた優さんが、新たな酒づくりの可能性を開いたと知り、お里ちゃんが言う通りだと思った。もしかしたら、寺田本家に女の子しか生まれないのも、微生物からの「外からいい菌を入れなさい」というメッセージなのかもしれない。はは、まさかねと思いつつも、男四人兄弟の優さんの子供たちは、やはり二人とも女の子なのである。不思議だよね?

川内 有緒