謙虚で実直な拓海くんは、亡くなった恩師や一緒に練習してきた先輩、ずっと指導してくれた先生の期待に応えようと、ひたすら稽古に打ち込んできた。その背中をずっと追いかけてきたのが、中学1年生の千代川勇也くんだ。
勇也くんも小学1年生の時から相撲を始めたのだが、同級生にも、年が近い上級生、下級生にも仲間はおらず、5つ年の離れた拓海くんだけが唯一の練習相手だった。
勇也くんは「友達を誘ってみても嫌だっていう人が多くて、同級生がいなくて寂しかった」と素直に振り返る。しかし、面倒見のいい拓海くんとの稽古によって、勇也くんは見事に鍛え上げられた。幼い頃から恵まれていた体格を活かしたダイナミックな相撲で、小学校時代は岩手県で常に優勝を争う存在だったのである。
今春、高校3年生と中学1年生になった二人だが、体格はあまり変わらない。勇也くんは、中学1年生にして身長167センチ、95キロという堂々たる体格で、筋肉質ながら小柄な拓海くんよりも一回り大きく見えるほどだ。
拓海くんが「恵まれた体をしているから、俺より期待できる」と認める勇也くんの夢は、「横綱になること」。
そう、白鵬関の「この土俵から、自分と対戦する力士が出てきたら成功だと思う」という言葉が実現するとしたなら、その相手は勇也くんになるだろう。

川内イオ