13歳の時、「白鵬関に近づけるよう稽古に励みたい」と宣言した拓海くんも、かつては力士を志していたが、高校3年生まで相撲を続けてみて「全国レベルで活躍できない自分には、プロは遠い」と実感したという。だから、今は弟弟子に夢を託そうと考えている。
「高校を卒業したら、勇也がひとりになってしまうので、僕が地元で仕事に就いて、勇也に相撲を教えて活躍させたいんです。勇也の横綱への道を応援したい」
この言葉を聞いた時、胸が詰まった。
実は、先に引用した東京新聞の記事にも、この拓海くんの想いが綴られていた。
なぜ、高校3年生にして、そこまで後輩のために尽くそうと思えるのかを知りたいという疑問から山田町を訪ねたのだ。
横綱を目指す年の離れた後輩のために、地元で就職して、練習相手を続ける。
高校3年生の言葉とは思えない熱い想いと覚悟を感じるが、話を聞いて納得がいった。拓海くんはきっと、これまで先輩や先生から受け継いできた山田町の相撲の絆を、唯一の後輩である勇也くんにもつなぎたいという想いがあるのだろう。

川内イオ