未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
70

ギャラリストは弁護士先生。

ギャラリー サロンコジカ

文= 松本美枝子
写真= 松本美枝子
未知の細道 No.70 |10 July 2016
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#6アーティストによる、ギャラリストのための「会議」

さて、大雅さんは、もうアーティスト活動はやっていない。三年前にやめたのだという。
それは打ち上げ中の「会議」での議題による。
気のおけないアーティスト仲間との間で出る真剣な話題を、大雅さんたちは「会議」と呼んでいるのだ。
ある時の「会議」で、大雅さんは札幌の作家たちに囲まれて、こう言い渡されたのだった。
「お前はもう作品を作るな。お前のアーティスト活動は、俺たちの害になる! 中途半端なことはやめて、もう俺たちのためにギャラリスト活動だけに専念しろ!」
一見、厳しいようだけど、これはアーティストたちの、大雅さんのギャラリストとしての才能を惜しんでの言葉なのである。 

アーティストをやめるまで、すぐには踏ん切りがつかないところもあったという大雅さん。

正直、アーティスト活動をやめるのは悔しい思いもあった。けれども、自分を冷静に見つめてみると、やはりアーティストとしていい作品を作れているとは言えないような気がした。

アーティストとしてよりも、大雅さんには、ギャラリストとしての伸びしろがたくさんある。それは誰の目から見ても確かなことだ。だから、迷わずそれに専念してほしい——。そんなアーティストたちの気持ちがひしひしと伝わった大雅さんは、悔しい気持ちを胸にしまって、アーティスト業から足を洗ったのだった。

これはもしかして、すんなり弁護士になって、ギャラリストになって、これまでやりたいことを全部してきた大雅さんの、一番の挫折だったのかもしれない。

だけれど、いつだってアーティストたちには、自分たちの作品と才能を見極めて支えてくれる理解者が必要だ。札幌の「会議」の参加者たちにとって、その大事な一人は、大雅さんなのだ。

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未知の細道 No.70

松本美枝子

1974年茨城県生まれ。生と死、日常をテーマに写真と文章による作品を発表。
主な受賞に第15回「写真ひとつぼ展」入選、第6回「新風舎・平間至写真賞大賞」受賞。
主な展覧会に、2006年「クリテリオム68 松本美枝子」(水戸芸術館)、2009年「手で創る 森英恵と若いアーティストたち」(表参道ハナヱ・モリビル)、2010年「ヨコハマフォトフェスティバル」(横浜赤レンガ倉庫)、2013年「影像2013」(世田谷美術館市民ギャラリー)、2014年中房総国際芸術祭「いちはら×アートミックス」(千葉県)、「原点を、永遠に。」(東京都写真美術館)など。
最新刊に鳥取藝住祭2014公式写真集『船と船の間を歩く』(鳥取県)、その他主な書籍に写真詩集『生きる』(共著・谷川俊太郎、ナナロク社)、写真集『生あたたかい言葉で』(新風舎)がある。
パブリックコレクション:清里フォトアートミュージアム
作家ウェブサイト:www.miekomatsumoto.com

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。