さて、大雅さんは、もうアーティスト活動はやっていない。三年前にやめたのだという。
それは打ち上げ中の「会議」での議題による。
気のおけないアーティスト仲間との間で出る真剣な話題を、大雅さんたちは「会議」と呼んでいるのだ。
ある時の「会議」で、大雅さんは札幌の作家たちに囲まれて、こう言い渡されたのだった。
「お前はもう作品を作るな。お前のアーティスト活動は、俺たちの害になる! 中途半端なことはやめて、もう俺たちのためにギャラリスト活動だけに専念しろ!」
一見、厳しいようだけど、これはアーティストたちの、大雅さんのギャラリストとしての才能を惜しんでの言葉なのである。
正直、アーティスト活動をやめるのは悔しい思いもあった。けれども、自分を冷静に見つめてみると、やはりアーティストとしていい作品を作れているとは言えないような気がした。
アーティストとしてよりも、大雅さんには、ギャラリストとしての伸びしろがたくさんある。それは誰の目から見ても確かなことだ。だから、迷わずそれに専念してほしい——。そんなアーティストたちの気持ちがひしひしと伝わった大雅さんは、悔しい気持ちを胸にしまって、アーティスト業から足を洗ったのだった。
これはもしかして、すんなり弁護士になって、ギャラリストになって、これまでやりたいことを全部してきた大雅さんの、一番の挫折だったのかもしれない。
だけれど、いつだってアーティストたちには、自分たちの作品と才能を見極めて支えてくれる理解者が必要だ。札幌の「会議」の参加者たちにとって、その大事な一人は、大雅さんなのだ。

松本美枝子