それではギャラリーを見てみよう。
サロンコジカでは、貸画廊はせずに、全て大雅さんのディレクションによる企画展だけを行っている。
企画展のみというギャラリーは、札幌ではとても珍しい。
私が行った時には、アーティストの武田浩志さんの展覧会が行われていた。武田さんは札幌在住の作家だ。平面の作家の登竜門であるVOCA展に選出されるなど、新進気鋭の作家である。
実は武田さんと大雅さんの付き合いは長く、あの上海にも一緒に行っていたアーティスト、その人なのだ。大雅さんがアートに足を踏み入れることになったきっかけの一人である。
武田さんの近年の作品は、平面作品と立体作品が同時に展開されている。今回の個展でも平面の「portrait」シリーズを中心に置かれていた。
特に平面作品はアクリル絵具を何十回も重ねて層のようにしていきながら作りこんだ、複雑な作品だ。武田さんの作品は、その時々の興味を人の形にして画面に押し込んでいるのだ、と大雅さんは言う。
平面のほうはきっちりと壁面に展示されているが、立体のほうは梱包から解かれる途中のように無造作に置かれているものもあり、そのコントラストがさらに作品にさまざまな表情を与えていく。


大雅さんはどういう視点で作家を選んでいるのだろうか?
「自分ができないことをやっている作家ですね」と大雅さんは答えた。
思いもつかない発想を持っていて、高い技術を持って作品を制作している、そんな作家を紹介していきたいと大雅さんは言う。
地元、北海道の作家の発掘はもちろんだが、一方で道外の優れた作家の展示もすること、そして20~30代の若い作家を育てるというのも、サロンコジカの重要なポイントだ。
またサロンコジカでは、企画展と並行して東京や大阪で開かれている国内最大級のアートフェアにも参加している。
アートフェアは、所属作家とサロンコジカのプレゼンの場だと大雅さんは考えている。ここで作品を買ったコレクターたちが札幌へ来てくれることも狙っているのだという。
現代美術によって、札幌と東京などの大都市を繋いでいるサロンコジカだが、実は大雅さんはそろそろ外国にも出ていくタイミングだ、とも考えている。
まずは台北やシンガポール、そして香港などアジアの大都市のアートフェアに参加し、ゆくゆくは武田さんのような北海道出身のサロンコジカの所属作家たちが、海外できちんと評価されるような、そういうルートを作りたい、と大雅さんは熱く語っていた。
武田さんの複雑で美しい展示を見ながら、その日が来るのもそんなに遠くなさそうだ、と私は思った。
そんな話を終えて、大雅さんはいったん法律事務所の方へと戻っていた。

松本美枝子