さて建物の入り口の小さなカフェに戻ってみることにした。
ここを切り盛りしているのはバリスタでもある佐々木恒平さんだ。移転前のサロンコジカの時からカフェを任されている。
移転してからは「COJICA COFFEE」のオーナーとして独立した。
実は恒平さんも大雅さんに負けず劣らず、ぶっ飛んだ二足のわらじの人である。本業は音楽家で、テレビやウェブの広告音楽を作曲している。
音楽家だけでも十分に食べていけるのに、コーヒー好きが高じて、独学で勉強し、昼間はここでバリスタをしているのだという。
コーヒーは厳選したスペシャルティコーヒーなどを中心に、恒平さんの手作りのお菓子やサンドイッチも食べることができる。どれもこれも独学とは思えない、目に美しく、味ももちろんおいしいメニューばかりだ。
だからサロンコジカにはアートだけではなく、「COJICA COFFEE」を目当てにやってくるお客さんも多いのだとか。


恒平さんは常に心がけていることが一つある。それは一杯のコーヒーを出すまでに、なるべくお客さんと会話し、必ず展示中の展覧会を説明すること。作曲の仕事は一人でコツコツとやるものだけれど、カフェではお客さんと会話することが、自分にとって楽しい作業だから、と恒平さんはいう。
小さなスペースにもかかわらず、この日もふらっとコーヒーを飲みに来るお客さんが、入れ替わり立ち代りやってきていた。
うーん、私の街にもこんな素敵なギャラリーがあって、さらにそこでおいしいコーヒーが飲めるとしたら、私もしょっちゅう来てしまうだろうな。
「サロンコジカでは誰よりも僕が一番長く、お客さんと接していますからね。展示もきっと僕が一番長い時間をかけて見ているし」と恒平さんは言う。恒平さんは、このサロンコジカの窓口なのだ。

松本美枝子