
さて梅津会館に入ってみると、資料館の入り口はすっかり「常陸佐竹市役所」となっている。もともとこの梅津会館は市役所としても使われていたのだというから、なんともぴったりな空間である。
そして窓口でボランティアをやってくれる町の人たちの多くは、「常陸佐竹市民会議」に参加している「市民」なのだと、深澤さんは教えてくれた。これから芸術祭期間中に行うイベントや、さらには「常陸佐竹市」を芸術祭以降どうしていくのか? などを話し合うという「市民会議」には、多い時にはなんと40人ほどが参加しているというから本格的だ。
ちなみに深澤さんは「常陸佐竹市」の市長(仮)でもある。実は深澤さんは、とりあえず最初は自分が「市長」をやったほうがいいのだろうな、となんとなく思っていたのだそうだ。ところが第1回目の市民会議で思いがけず「市民」から、市長は選挙で選ぶべきではないのか? との異議があった。
なるほど、それはもっともな意見である。そこでとりあえずは深澤さんが仮の市長として「常陸佐竹市」を運営し、これから改めて市長選を行う、ということになったのだという。深澤さんの作品であるにも関わらず、すでに「市民」が良い意味で、作品にグイグイ介入しているところが、なんとも面白い展開だなあ、と私は思った。
それにしても深澤仮市長が被っているヘルメットに載っている、黒い大きなもじゃもじゃは、一体なんなのだろうか……? というか、なぜヘルメットをかぶっているのか……?と思うのは私だけではあるまい。
「これは毛虫です!」と深澤さんはその疑問に即座に答えてくれた。
け、毛虫? 驚く私に、深澤さんはこう説明してくれた。このヘルメットは実は佐竹氏の20代当主、佐竹義宣(さたけよしのぶ)の兜を模したものだ。佐竹氏の兜には、実際にこのような毛虫をかたどった飾りが付いていたのだ。一説によると毛虫は常に前進し、絶対に後退しないことから、兜にその強さをかたどったものであるとも言われている。
会館1階にある常陸佐竹氏の「市民証発行所」では、この毛虫のカブトを模したヘルメットやカチューシャ(?!)などがあり、誰でもこれを付けて、証明写真を撮ることができるのだ。「市民」の方たちに「松本さんも是非」と言われたので、勧められるままに、私も市民証を作って「市民」となった。
ちなみに「常陸佐竹市」の市民はなぜか、姓は皆同じである。市民証を作るとわかるのだが、氏名の記入欄の姓のところは、なぜかすでに印刷されているのだ。そう、「常陸佐竹」と……。自分で書き込めるのは名のところだけである。
だから私はここ「常陸佐竹市」では松本美枝子ではなく、自動的に「常陸佐竹美枝子」となってしまうのだ!


そういえばさっきスタッフの誰かが、「市民になれば皆、家族ですから!」と言っていたっけ。その時はよく意味がわからなくて、なんとなく受け流していたのだが、さっきの話はこういうことだったのか……と、この妙におもしろい市民証を見て、私は思わず笑ってしまったのだった。

松本美枝子