
さて集中曝涼は来年の楽しみに取っておくことにして、私は14時から屋外で始まる「常陸佐竹市」のイベント、「常陸佐竹市の歌を作る会」に参加することにした。
作曲家の西井夕紀子さんを招いて、参加者みんなで常陸佐竹市を表す歌詞を考え、それに合わせて西井さんと共にメロディを作るのだという。作詞はともかく、作曲はどうするんだろうか……、と思いながら、梅津会館前に設置したテントに向かった。テントの中には大きなホワイトボードと、キーボードや音がなるおもちゃなどが置かれている。
参加者は、50〜60代が多い「常陸佐竹市民」のコアメンバーから、通りすがりの小さなお子さんを連れた若いファミリーまで、さまざまな人たちが10人ほど集まり、いよいよ歌作りが始まった。西井さんが参加者に聞きながら、まずは歌詞の根幹となる常陸佐竹市のイメージを言葉にしてホワイトボードに書き出していく。佐竹氏ゆかりの歴史について、あるいは町の人々の暮らしの記憶、みんながよく行く公園の名前、さらにはこの土地の地質を形作っている岩石など、参加者が思いつくままに、さまざまな単語や短い言葉があっという間にボードを埋めていった。
言葉はすぐにたくさん出てきたけど、これを歌えるような歌詞として繋いでいくのはなかなか大変な作業だった。参加者は市のイメージに対してそれぞれ熱い思い入れがあり、互いがそれを語りだすと、あっという間に長いフレーズになってしまう。
さらには、みんなが挙げた言葉を歌全体として意味が通るようにしなければならない。節がつけられるような字数にするため、西井さんはみんなの思いを受け止めつつ、注意深く歌詞を整理していく。1時間半後には、なんとか1番から3番まで続く歌詞が出来上がった。


いよいよ最後の仕上げ、メロディである。西井さんは出来上がった歌詞を目の前にして、キーボードを弾きながら「こんなメロディはどうですか?」と、歌いだした。それは昔の唱歌にありそうな懐かしみのあるメロディで、出来上がった歌詞にも、なかなかよく合っていた。
聞いていた深澤仮市長も、そして私も、おお、いいですねえ……と言おうとした、その瞬間である。なんと参加していた一人の男性が「いや、そういう、いかにも市の歌にありそうな昔風のメロディじゃなくて、もっと新しい感じの曲調がいいな!」と言い出しだのであった。さすが、このプロジェクトの作者である深澤さんの意見がなかなか通らない「常陸佐竹市」だけのことはある……。私はなんだかおかしくなって深澤仮市長の方をちらりと見ると、仮市長も笑っていた。
その意見を受けて、西井さんがちょっと考え込んでから改めて歌いだしたメロディは、テレビで流れていてもおかしくない、爽やかで今風のポッポスのような曲調であった。これを聞いて「常陸佐竹市民」のコアメンバーたちは、「そうそう、こういうの! かっこいい!!」と大喜びである! 最初の唱歌風のものに比べるとやや複雑なメロディは、お父さんたちが歌うには若干難しそうではある。しかしすっかりみんなが気に入ったこのおしゃれなメロディに、「常陸佐竹市」のイメージがてんこ盛りされた、手作りの市の歌の1番がついに出来上がったのであった。
陽はだいぶ傾いてきていた。2番と3番は西井さんが改めてまとめて、また市民のみんなに聞いてもらうことになった。

松本美枝子