未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
87

思い出から生まれる「未来」のカケラ

諏訪の「リビルディング・センター」はただの古材屋ではありません!

文= 川内有緒
写真= 川内有緒
一部写真提供= ReBuilding Center JAPAN
未知の細道 No.87 |25 March 2017
この記事をはじめから読む

#7本家アメリカにラブコール

ReBuilding Center JAPAN提供

 2015年の年末、ポートランドのReBuilding Centerにメールを送った。

 メールアドレスは知らないから「お問い合わせフォーム」を利用。内容はReBuilding Centerを日本に作りたいから、名前とロゴを使わせて欲しいというものだ。日本の空き家の増加状況や、自分たちの古材を使った設計の実績も説明をした。

 すぐに「OK!ちょっと待ってて、ロゴを送ります」と返信が来た。あっさりと第一関門はクリアである。

「よく許してくれたよね、どこの馬の骨だかもわからないのに」(カナコさん)

 それにしても、ただ古材を流通させるだけだったら、「アズノ古材店」にすることもできた中で、あえてアメリカの「リビルディング・センター」を継承しようとしたのはなぜだろう。

「今、古材というと大体アメリカから輸入したものが主なんだけど、日本の古材をちゃんと使った方が循環としていいですよね。そういった考え方を日本全体に広めるためには、僕らみたいな小さな動きで『古材屋を作りました!』というのではなく、ポートランドという注目されている町の「リビルディング・センター」を日本に持ってくるという方がインパクトもあって、広まっていくと思ったんです。それに、僕らがこれからこの店をやっていく中で、『立ち返る場所』が自分たちの場所以外にあるといい。あそこに行けば僕らが求める『未来』があるというような場所。その二つの理由でした」

 なるほど、彼らが作りたいのは、ただの古材屋ではなくて、その先にある「文化」なのだ。

ReBuilding Center JAPAN提供

 マスヤで知り合った人に「この辺(諏訪地域)でリビセンやりたい」と話したところ、地元の建設会社が持っているビルで、20年間空き家になっているところがあるという。天井が高く、面積も1000平米と堂々たる鉄骨三階建て。

 友人を介して、「貸してください!」と、その会社に企画書を持ちこむと、トントン拍子に話は進んだ。その年は、その建設会社の創業90周年で、それを機にこの建物を解体しようと話が進んでいた矢先に、二人は滑り込んだ。

「どうぞお使いください」と嬉しい了承を得るなり、怒涛のリフォーム工事が始まった。話を聞いている私も、「おー!」と言いたくなるスピード展開である。

 着工の直前には、スタッフ全員でアメリカのリビセンに挨拶にも行ったそうだ。

このエントリーをはてなブックマークに追加


未知の細道 No.87

川内 有緒

日本大学芸術学部卒、ジョージタウン大学にて修士号を取得。
コンサルティング会社やシンクタンクに勤務し、中南米社会の研究にいそしむ。その合間に南米やアジアの少数民族や辺境の地への旅の記録を、雑誌や機内誌に発表。2004年からフランス・パリの国際機関に5年半勤務したあと、フリーランスに。現在は東京を拠点に、おもしろいモノや人を探して旅を続ける。書籍、コラムやルポを書くかたわら、イベントの企画やアートスペース「山小屋」も運営。著書に、パリで働く日本人の人生を追ったノンフィクション、『パリでメシを食う。』『バウルを探して〜地球の片隅に伝わる秘密の歌〜』(幻冬舎)がある。「空をゆく巨人」で第16回開高健ノンフィクション賞受賞。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。