未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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思い出から生まれる「未来」のカケラ

諏訪の「リビルディング・センター」はただの古材屋ではありません!

文= 川内有緒
写真= 川内有緒
一部写真提供= ReBuilding Center JAPAN
未知の細道 No.87 |25 March 2017
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#9愛おしきものたち

廃材を利用して造られた大きなテーブルはカフェのシンボル。カフェには、古材を買う人以外もたくさん訪れる。

「実際にリビセンをはじめてみて、今どうですか?」

 なにか予想外な苦労などがあるかな、と思いながら聞いてみると、「うーん、いいことしかないねえ!」と答えたのはカナコさんだった。

 そのからっとした言葉の続きを聞いて、それ、わかりますー、と大いに納得した。
「なんかこう、私は社会人として普通に会社に勤めている時期があったんだけど、こんなに世の中の矛盾を背負って生きていかないといけないのかと思っていたんです。例えばコーヒーチェーンで働いている時は1日100個くらいサンドイッチを捨てないといけなかったり。捨てられなきゃいけないサンドイッチを作らなければいけない人の気持ちになったら、そこに気持ちやエネルギーを込められないだろうなと思ったり。でも、安全とか責任の問題で誰かにあげることはできないし。でも、ここ(リビセン)では、そういう矛盾や諦めなければいけないことがなくなって、正直、気持ちいいです」

 捨てなくていいい。諦めなくていい。気持ちを思いっきりこめていい。それを喜んでいるのは、きっと彼女だけではない。大切なものを手放したくないけれど、泣く泣く手放さざるをえないたくさんの人たちが、同じように感じているにちがいない。

 リビセンの二階に上がれば、解体の現場からレスキューされた古道具がところ狭しと並んでいる。窓が大きい明るい空間で、私は何をかくそう、この場所がリビセンの中で一番好きだ。

 なぜだかわからないけど、すべてのものが愛おしい。
 古いガラスがはまった建具、扉、古いソファや扇風機、古時計、そろばん、グローブ、カゴ、鍋、薬箱まで。
 ただ雑多なものが並んでいるだけなのに、どこか静謐とした空気が流れている。
 本当だったら捨てられていたかもしれないたくさんの品々は、新たな主人をここで待っているのだ。

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未知の細道 No.87

川内 有緒

日本大学芸術学部卒、ジョージタウン大学にて修士号を取得。
コンサルティング会社やシンクタンクに勤務し、中南米社会の研究にいそしむ。その合間に南米やアジアの少数民族や辺境の地への旅の記録を、雑誌や機内誌に発表。2004年からフランス・パリの国際機関に5年半勤務したあと、フリーランスに。現在は東京を拠点に、おもしろいモノや人を探して旅を続ける。書籍、コラムやルポを書くかたわら、イベントの企画やアートスペース「山小屋」も運営。著書に、パリで働く日本人の人生を追ったノンフィクション、『パリでメシを食う。』『バウルを探して〜地球の片隅に伝わる秘密の歌〜』(幻冬舎)がある。「空をゆく巨人」で第16回開高健ノンフィクション賞受賞。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。