未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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思い出から生まれる「未来」のカケラ

諏訪の「リビルディング・センター」はただの古材屋ではありません!

文= 川内有緒
写真= 川内有緒
一部写真提供= ReBuilding Center JAPAN
未知の細道 No.87 |25 March 2017
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#10誰かの思いをつないでいくこと

 要請があるたびにリビセンは、トラックに乗りこんで、古材や思い出の品々を“レスキュー”に出かけていく。女性のスタッフ一人(古材部の部長)だけで行くことも多いそうだ。解体屋さんに迷惑がかからないように、解体屋さんが入る前に“レスキュー”を終えるのが原則。構造体はいじらずに、建具や使える家具、道具などレスキューできそうなものを持って帰る。

 最近では、ある雑貨店の店主の実家が解体されることになったとの連絡が入り、かなり遠かったが、思い切ってレスキューに出かけた。その実家には、家族の思い出たたくさん詰まっていたので、たいそう喜ばれた。そこでレスキューされた古材は、今度は、その依頼主の転居先でオープンする雑貨店の棚に生まれ変わることになった。

「大切なうちに使われていたものを少しでも残して、今の空間に生かすという活動には大きなやりがいを感じています」とアズノさんはことさら嬉しそうだった。

 そう言う通り、リビセンの古材にはきちんと、その木材の「来歴」も書いてあったりもする。それは、こんな感じだ。

 リビセン施行中のお助けたいとして大活躍していただいた諏訪地域にお住いの高太郎さんの大おじさんの板倉の材です

 要請があれば、彼らは食材のレスキューだってする。
「台風で落ちちゃったリンゴを買い取って販売したり、リンゴのジュースにして出したり。お母さんが来て、リンゴを買ってくれたり、子どもたちが喜んでかじっていったり」
 こうして、今日も捨てられるはずだったものがグルリと循環し、誰かの生活をまた少しシアワセにする。

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未知の細道 No.87

川内 有緒

日本大学芸術学部卒、ジョージタウン大学にて修士号を取得。
コンサルティング会社やシンクタンクに勤務し、中南米社会の研究にいそしむ。その合間に南米やアジアの少数民族や辺境の地への旅の記録を、雑誌や機内誌に発表。2004年からフランス・パリの国際機関に5年半勤務したあと、フリーランスに。現在は東京を拠点に、おもしろいモノや人を探して旅を続ける。書籍、コラムやルポを書くかたわら、イベントの企画やアートスペース「山小屋」も運営。著書に、パリで働く日本人の人生を追ったノンフィクション、『パリでメシを食う。』『バウルを探して〜地球の片隅に伝わる秘密の歌〜』(幻冬舎)がある。「空をゆく巨人」で第16回開高健ノンフィクション賞受賞。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。